人間の高い言語能力はチンパンジーと遺伝子わずか1個の差
以下は、記事の抜粋です。
たった1個の遺伝子の違いが、チンパンジーにはない高度な言語能力を人間にもたらす、大きな原動力となった可能性を、米カリフォルニア大などが突き止めた。
この遺伝子は、他の様々な遺伝子の働きを調節しているため、脳で言語能力をつかさどる部分の発達にも影響するとみられる。11月12日付の英科学誌ネイチャーに発表した。
「FOXP2」という遺伝子で、その異常は遺伝性の言語障害を引き起こす。人間とチンパンジーでは、この遺伝子で作られるたんぱく質がアミノ酸2個分だけ異なる。
人間の培養細胞で両者のFOXP2を働かせてみたところ、人間のFOXP2はチンパンジーに比べて、61個の遺伝子を活発化させ、逆に55個の遺伝子の働きを抑えることが分かった。実際の脳組織でも、こうした働きの違いを確認した。
これらの遺伝子が、神経回路の構築などを通じて、文法の理解や発話の能力に影響するとみられる。人間とチンパンジーの全遺伝情報(ゲノム)の差はわずか1.2%で、それが知性や言語能力の大きな違いをどう生み出したのか、これまで謎だった。
FOXP2という名前は“forkhead box,サブクラスP、メンバー2”の略です。転写因子として機能し、DNAに結合して遺伝子の転写を促進あるいは阻止することでタンパク質の産生に影響を及ぼすと考えられています。
Monacoらは、家族の多くに独特の言語障害がみられる3世代にわたる家系(KEファミリー)の遺伝子解析から、7番染色体上のFOXP2遺伝子の異常を発見しました。常染色体性優性パターンで遺伝します。
KEファミリーの1塩基変異は、715個のアミノ酸からなるタンパク質の553番目がアルギニンからヒスチジンに変異していました。この553番目のアルギニンは、酵母からヒトに至る種でフォークヘッドスーパーファミリー全てのタンパク質で完全に保存されており、アミノ酸置換は標的DNAの主要グルーブ(溝、groove)に直接接触するヒスチジン残基に隣接して生じていました。一方、チンパンジー、ゴリラ、およびアカゲザルなどの霊長類とヒトの間では2つのアミノ酸が異なります。2つとも553番目ではありませんので、これらの変異とKEファミリーの表現型とは直接の関係はありません。
2つの中1つは、プロテインキナーゼC(PKC)のリン酸化部位が生じることで注目されています。ヒトでは、1塩基変異により325位のアスパラギンがセリンに置換されています。このセリンがPKCによってリン酸化される可能性があります。こんなところでもPKCが働いているとしたら嬉しくなります。
ここまでのまとめは、2003年のABIの記事からの引用です(ABIの記事をみる)。
当初、記事を読んだ時点では、KEファミリーの遺伝子変異は、ヒト以外の霊長類のアミノ酸配列と同じものかと思いましたが、上記のように、この予想は間違っていました。今回の論文では、ヒト型のタンパク質と霊長類型のタンパク質の転写機能の差異を調べたものでした(論文の要約をみる)。
KEファミリーの変異は、FOXP2とDNAの結合に影響を与える重要なものです。一方、上記の2つのアミノ酸の違いの生理的な意味がわかっていませんでした。今回の論文は、ヒト型と霊長類型では転写活性がちがうことを明らかにしています。しかし、この違いが本当に言語能力に影響を与えるかどうかは調べていません。ここから先は難しいですね。
コメント
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FOXP2というのを見て、どこかでこんな狐(fox)っぽぃのを見た覚えがして、ちょっと考えてみましたところ、昔、免疫学の授業で習ったFOXP3を思い出しました。
その時、確か僕は「FOXP3はIPEX症候群患者における自己免疫疾患の原因遺伝子」として教わったんです。
FOXP2とFOXP3はお友達でしょうかねぇ。。
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>KIi☆さん
狐Pは4匹います。FOXP1は腫瘍増殖抑制、FOXP2は言語障害、FOXP3は自己免疫疾患、FOXP4は肺の成長に関与していると言われています。