2015年ノーベル生理学・医学賞発表!受賞者は感染症の薬を開発した3名! ~トゥ・ヨウヨウ博士編
以下は、記事の抜粋です。
《トゥ博士は何をしたの?》
1960年代後半の中国。政府は薬剤耐性を持つマラリアに効く、新たな抗マラリア薬の開発を科学者に命じます。その一人がトゥ博士でした。トゥ博士は漢方に注目し、様々な薬草を試す中で、マラリアに効力があると思わしき1つの薬草に出会います。それがキク科ヨモギ属の青蒿(セイコウ:Arteminia annua)でした。
しかし、その効果は不安定で、実用化にはほど遠い状態…。悩んだトゥ博士は原点に立ち戻り、340年に東晋朝で書かれた古文書、中国で初の救急医療書にヒントを見つけたのです。その中の記述には「青蒿の絞り汁が病に効く」とありました。トゥ博士は、それまで高温で抽出していたことで成分が変成してしまったことに気づき、低温抽出を行うことでマラリアに効力のある「アーテミシニン(Artemisinin)」の抽出に成功したのです。1972年のことでした。
それまでの抗マラリア薬への耐性があるマラリア原虫にも効果を効力を発揮し、またクロロキンやキニーネに比べて副作用が低いアーテミシニンは、中国内では1980年代から使用され始めます。そのめざましい効果は注目を集めますが、政治的な背景から世界保健機構(WHO)に認可されたのが2000年、本格的に使用され始めたのが2006年と、世界中で多くの命を救い始めるまでに30年近くもかかってしまいました。
アーテミシニンがマラリア治療に加わったことで、現在では死亡率が20%下がり(子どもでは30%)、アフリカに限れば、毎年10万人もの命が救われているそうです。
今年のノーベル生理学・医学賞についての私の予想は外れました。大村氏に関する記事はたくさんありますが、屠呦呦(トゥ・ヨウヨウ、Youyou Tu )氏に関する記事はあまり見当たりません。ようやく上の記事をみつけましたが、以下のラスカー賞受賞時の記事や欧米の報道をみると、いくつか誤りがあるようです。
Artemisinin: Discovery from the Chinese Herbal Garden
Lasker Award Rekindles Debate Over Artemisinin’s Discovery
誤り、その1)屠呦呦氏は、一度もPhDの肩書きをつけて紹介されていないので、「トゥ博士」と書くのではなく、「トゥ教授」と書くべきでしょう。”Professor Tu”とは書かれています。
誤り、その2)「トゥ博士は漢方に注目し、様々な薬草を試す中で、マラリアに効力があると思わしき1つの薬草に出会います。それがキク科ヨモギ属の青蒿(セイコウ:Arteminia annua)でした。」とあります。この文は、いろいろな薬草を実験でスクリーニングした結果、この薬草を発見したように意味がとれますが、実際には以下の図にあるように、漢方薬に関するいろいろな古文書に出てくる薬草の文献的解析が重要だったようです。その作業で、何度も出てきたArteminia annuaが候補として浮かんできたのだと思います。
誤り、その3)アーテミシニンは、当時その兵隊の多くが薬剤耐性マラリアに悩まされていた北ベトナムが、中国政府に依頼して始まった機密プロジェクト(Project 523)の産物です。そのため、結果の公開は遅れましたが、1981年には、彼女がProject 523を代表してWHOのグループに発表しています。上の記事のニュアンスは少し違うように思います。
あと、榎木さんも書かれていますが、中国人と日本人の共同受賞は、昨今の日中関係への、ノーベル財団からのメッセージなのでしょうか?それにしても、日本のマスメディアは国粋的というか、大衆的というか、、、情けない、、、
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コメント
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西洋の「植物誌」、インドの「ヴェーダ」と並び、中国の古文書は、人類の福祉のために共有できる資産ですね。
「中国人と日本人の共同受賞は、昨今の日中関係への、ノーベル財団からのメッセージなのでしょうか?それにしても、日本のマスメディアは国粋的というか、大衆的というか、、、情けない、、、」
という点に同感です。「大衆的」だから、日本のマスメディアは「全面的なパパラッチ・モード」と言われてしまうでしょう。
http://ameblo.jp/aya-quae/entry-12065989200.html
に書きました。
先生がお書きの「国粋主義」は、「大衆性」=「集合的無意識の無思想」からくるものです。
(1)日露戦争では、ロシアの合理主義者が極東に対する領土的な野心に振り回されないからこそ、日本に勝ちを譲ることにしたと理解せず、「ロシアに勝った」と勘違いしたり(ロシア人が苦笑)、
(2)南京陥落で大はしゃぎしたりした「大衆性」と同根でしょう。「南京陥落で大はしゃぎした大衆」が今なお無反省のまま大量にいて、「何人殺害したか」など問題の核心を外した議論に熱中して、殺害したこと自体には反省が甘い「加害者PTSD」状態なので、中国のインテリが日本に対して警戒心を持つことは不可避です。こちらは「苦笑」では済まない問題です。
苦笑では済まない、今も生々しいPTSD問題とはいえ、「南京陥落で大はしゃぎ」する「大衆的」メンタリティではない日本人インテリに対して、中国人インテリが「南京大虐殺について反省しろ」と高圧的な態度を取るなどというケースは私は見たことがありません。
こうしてみると、国粋主義とはPTSD負の連鎖からくる精神症状(←認知機能が歪んで精神機能が正常に働かず障害しているから「精神障害」であり、戦争について素直に反省できない状態が続くPTSD。長生きすると晩発性PTSDを発症して認知症と誤診されるかも…)と言えるでしょう。
「大衆的」だから、日本のマスメディアは「全面的なパパラッチ・モード」と言われてしまう状況については、マスメディアの皆さまに反省していただきたいものです。
「無反省は精神障害」ですよ。