分裂酵母の細胞内カルシウム濃度変化を生きたまま長時間モニター―分裂酵母のオワンクラゲ化

Transient Receptor Potential (TRP) and Cch1-Yam8 Channels Play Key Roles in the Regulation of Cytoplasmic Ca2+ in Fission Yeast

以下は、論文要約の抜粋です。


細胞内カルシウム濃度の制御は様々な細胞過程において極めて重要である。研究者らは、GFP-イクオリン融合タンパク質をカルシウムセンサーとする高感度測定系を用いて、各種刺激下の分裂酵母細胞内カルシウムレベルを測定した。

その結果、少なくとも2種類のカルシウム流入系が存在し、細胞外の様々な変化に対応して細胞内のカルシウム濃度を変化させることが明らかになった。さらに、これらの流入系を形成するカルシウムチャネルは、カルシニューリン経路とマップキナーゼ経路によって制御されることも明らかになった。


私の研究対象の1つ、カルシニューリンという酵素は、臓器移植に用いられるタクロリムスなどの免疫抑制薬の標的分子なのですが、この酵素の活性は細胞内カルシウム濃度によって制御されています。カルシニューリンはヒトから酵母にまで保存されていて、分裂酵母でもカルシウムで活性化されます。このような理由で、分裂酵母の細胞内カルシウム濃度をモニターすることは、私の長い間の課題でした。

哺乳動物細胞で使われるfura-2などの色素はうまく細胞内に入りません。カルモジュリンにFRET技術を応用したカメレオンも酵母細胞内で発現してみましたがダメでした。なんとか使えたのがカルシウムと結合すると発光するイクオリンでした。しかし、光が弱くて我々のルミノメーターでは、ギューギューに細胞を濃縮しないと測定できませんでした。これでは、生理的条件下でのモニターは不可能でした。

GFP融合タンパク質の細胞内局在を調べることは日常的にやっていのですが、下村先生のノーベル賞の話を聞いて、オワンクラゲではイクオリンで作られた青く弱い光がGFPにエネルギー転移して緑の強い光になることを初めて知りました。調べてみたら、GFP-イクオリン融合タンパクを使って高感度カルシウムセンサーを作った論文がありました。それを、分裂酵母で発現したら、細胞が自然に増殖できるような低密度でも細胞内カルシウム濃度がうまくモニターできました。

このように、この仕事は私にとっては重要なもので、論文も自信作だったのですが、”mechanistic insight”がないとか、雑誌に掲載する余裕がないとか言われて、有名雑誌にはことごとくリジェクトされました。それを救ってくれたのがPLoS ONEです。

以前のブログで、「ポアンカレ予想」を解決したペレルマン氏の論文がarXivに掲載されたことを紹介しました(記事をみる)。arXivは数物系の雑誌で、査読も冊子体もないオープンアクセス(全文がインターネットで公開)ジャーナルです。その記事で私は、「医学・生物学の分野でも、このようなサイトが一般的になれば面白い」と書きましたが、PLoS ONEはこれに近いと思います。arXivは、毎月約5,000報の論文が掲載されているそうですが、PLoS ONEも7月19日だけで76報が掲載されていました。

PLoS Oneのポリシーは、editorが面白いと思うか、あるいは読者が多そうかではなく、テクニカルに健全であるかどうかで掲載が決定される、ということです。arXivと異なり査読はあります。むしろ、査読は厳しい(rigorous)と強調しています(説明をみる)。おそらく、editorial <<< peer というポリシーだと思います。Natureなどとは対極のポリシーですが、最近Natureも”Scientific reports“というオープンアクセスジャーナルを出しました。我々の論文投稿ポリシーも再考の必要がありそうです。

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