来るか? 透析がなくなる日…ブタの腎臓が移植待機者を救う、米国では5年以内に実用化か
以下は、記事の抜粋です。
移植の機会が得られない重度の腎不全患者にとって、「異種移植」は、生涯続く透析生活から解放されるかもしれないという大きな希望になる。
2025年に安全性と有効性を評価する臨床試験開始
下の写真はブタの腎臓を移植したところ。血管吻合が終了し、血流が再開している。2024年3月、マサチューセッツ総合病院で、世界で初めてブタの腎臓を、末期腎不全の62歳男性に移植する手術が行われた。ドナーは、eGenesis社が作製した遺伝子改変ブタ。人間に適合できるよう、10種類の遺伝子改変を施して、移植後の免疫拒絶反応を軽減させるとともに、レシピエントへの感染が懸念されるブタ内在性レトロウイルスの全遺伝子を不活化している。
同手術を執刀した河合氏は、「術後すぐに尿が出てクレアチニン値も低下した。献体腎移植より反応が良く、生体腎移植に近い印象だ」と話す。移植手術を受けた男性は退院後体調も良好だった。51日後に死亡したが、移植腎には免疫拒絶反応が起きておらず、死因は持病の虚血性心疾患の悪化によるものだったという。その後、河合氏は、2025年1月に同じ遺伝子改変ブタのクローン個体の腎臓で2例目の移植手術を執刀。「術後3カ月経過した現在、レシピエント拒絶反応もなく良好な腎機能で外来でフォローされている」(同氏)。2025年中にさらに2例の手術を予定している。
米国では、同じく遺伝子改変ブタを開発、生産しているUnited Therapeutics社が、2025年中に、ブタ由来の腎臓をヒトに移植する臨床試験を開始することを公表。米食品医薬品局(FDA)から承認された、安全性と有効性を評価するフェーズレス試験であり、最初に登録されるのは6人。最大50人まで拡大していく方針だ。
対象は、5年以内に腎移植が受けられない末期腎不全
臓器移植のドナー不足を解消する新たな治療として、異種移植の技術が急速に進んでいる。腎移植の場合、米国では待機リストに登録すると、3~8年以内に献体移植を受けられる可能性があるとされているが、実際には待機者全体の30%程度しかチャンスが得られない。中でも、60歳以上の腎不全患者は、待機リストに登録されても約半数は移植を受けられる前に死亡する可能性が高いという報告もある。
そんな中、FDAは異種移植の治験の対象患者について、当初は、命を脅かす緊急の状態で他に治療手段がないケース(コンパッショネート・ユース)に限っていたが、対象要件を拡大。(1)医学的理由により従来の同種腎移植が受けられないと判断された、(2)待機リストに登録されているが、5年以内に脳死腎移植を受けられずに死亡するか、移植を受けられない可能性が高い55~70歳の末期腎不全患者──といったケースを対象としている 。例えば、糖尿病などの持病がある60歳以上の高齢者で、今ならまだ移植手術を受けられるが、5年後には体力が落ちるなどして、移植手術の適応にはならないであろう人が対象になる。今後、全身状態の良いケースに実施して治療成績を安定させ、3、4年は臓器を持たせることを目指しているという。
日本でもドナーブタの生産拡大中
ドナー不足がより深刻な日本も、後に続く。ブタによる異種移植実用化を目指すスタートアップのポル・メド・テック社は、eGenesis社が作製した遺伝子改変ドナーブタのクローン個体を、現在約40頭生産し、2024年秋からは、ドナーブタの腎臓をサルに移植する実験手術に提供している。
ポル・メド・テックやeGenesis社が生産しているユカタンミニブタは、受胎から4カ月弱で誕生し、生後2、3カ月で約10~15kg、生後7カ月~1年で約70kgまで大きくなる。ヒトからの移植と異なり、ドナーを計画的に任意の場所に運べる利点があるため、レシピエントのいる医療機関に隣接した施設で腎臓を取り出し、すぐ移植できる体制を整えられるという。
手術手技は大差なし、課題は術後の管理か
手術の流れや手技については、ヒトの腎移植手術とおおむね変わらないようだ。腎移植を手がける医師なら技術的に誰でもできる手技だという。
異なるのは術後の管理だ。拒絶反応の種類が異なるため、通常の同種移植では3種類の免疫抑制薬を投与するところ、ブタ由来の腎臓移植では5種類使用する。ヒトの臓器移植では通常起こらない血栓性微小血管障害症(TMA)などが起こることもあるが、拒絶反応については、今の免疫抑制薬のラインアップで対応できると考えられている。
ゲノム編集技術により異種移植は急速に進歩
異種移植では、移植時の拒絶反応をいかに抑えるかが長年の大きな課題の一つだったが、それをクリアしたのが、最近急速に広がっている「CRISPR-Cas9」と呼ばれる最新のゲノム編集技術と、免疫抑制薬の進歩だ。
ブタ由来の臓器移植においては、心臓、肝臓など、腎臓以外の臓器についても臨床応用に向けて研究は進んでいるが、まずは腎臓で大きく進むことが期待されている。腎臓移植の場合、移植した腎臓が廃絶しても死亡するわけではなく、また透析に戻るという選択があるため、チャレンジしやすいからだ。同種移植の機会がかなり限られる日本では、異種移植はより貴重なオプションになるだろう。
将来的には、透析がなくなる日が来るかもしれない。
日本の透析患者数は年々増加し、2023年末には343,508人となり、人口1,000人あたりの患者数は2.8人です。人工透析の標準的な頻度は週3回、1回4時間です。これだけの時間をかけても正常の腎臓の10%~15%の機能しか果たせないとされています。実際、年齢、合併症の有無、糖尿病の有無などによって大きく変わりますが、透析を導入した場合の5年生存率は、約50%~60%程度です。記事に書かれているように、日本の移植状況はアメリカよりもはるかに悪く、日本では腎臓の移植は15年待ちと言われており、待っている間に命が尽きるヒトが多い状態です。
ブタのおかげで10年後に透析がなくなることを祈ります。
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