メラノーマ患者の余命延ばす2つの新治療法、米学会で発表
以下は、記事の抜粋です。
最も致死性の高い皮膚がんであるメラノーマ(悪性黒色腫)患者の生存期間が、2つの新たな治療法により延長したとの臨床結果が、6月5日の第47回米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology、ASCO)で発表された。
ロシュが開発した経口治療薬ベムラフェニブ(Vemurafenib)は、メラノーマ形成で重要な役割をするプロテインの製造を阻止する効果を持つ。675人を対象とした臨床試験を行った結果、この治療薬を利用した患者は、死亡する可能性が、化学療法を受ける患者よりも63%低くなったという。
また、病状が進行するリスクは、化学療法と比較して74%減少した。皮膚炎や関節痛などの副作用が出たのは、試験参加者の10%未満だった。
論文の主執筆者で、米スローン・ケタリング記念がんセンターの医師、Paul Chapman氏は「メラノーマの個別治療に向けた大きな一歩だ」と述べ、「腫瘍に特定の遺伝子突然変異を抱える患者に対する専用治療法で、初めての成功例だ」と語った。
進行メラノーマ患者の生存期間の延長に役立ったもう一つの新たな治療法は、免疫を活性化させるipilumumab(商品名Yervoy)を使った治療だった。ASCOは前年、Yervoyの臨床試験を実施。試験の結果、化学療法のみを受けた進行メラノーマ患者の3年後の生存率が12.2%だったのに対し、Yervoyと化学療法を組み合わせた同患者の場合は20.8%だった。
WHOによれば、世界で年間6万6000人が皮膚がんで死亡しており、そのうち80%がメラノーマに関連している。また、患者の半数以上が59歳未満だという特徴もある。
ベムラフェニブ(Vemurafenib)は、以前の記事でPLX4032/RO5185426として紹介した薬物です(記事をみる)。メラノーマの40から60%において、BRAFというマップキナーゼ・キナーゼ・キナーゼに変異があります。また、BRAF変異の90%は、600番目のアミノ酸であるバリン(V)がグルタミン酸(E)に変化しています(V600E変異とよぶ)。
この変異によって、下流のマップ・キナーゼ経路が常に活性化された状態になり、細胞増殖が止まらなくなります。ベムラフェニブをV600E BRAF変異を有する転移性メラノーマ患者に用いたところ、大部分の患者で腫瘍の完全あるいは部分的退縮が認められたそうです。ただし、ベムラフェニブが臨床的効果を発揮するためには、腫瘍細胞のBRAF/MEK/ERK経路を80%以上阻害する必要があるようです(記事をみる)。
一方、イピリムマブ(ipilimumab、Yervoy®)は、cytotoxic T-lymphocyte-associated antigen 4 (CTLA-4)の働きを阻害して、抗腫瘍T細胞の働きを増強します。CTLA-4は、T細胞活性化経路を抑制する免疫チェックポイント分子です。イピリムマブは、CTLA-4を阻害する完全ヒト化モノクローナル抗体で、抑制系の抑制により抗腫瘍免疫を活性化するとされています(記事をみる)。
ベムラフェニブはアメリカでもまだ承認されていませんが、イピリムマブは今年の3月25日にYervoy®として承認されました。これらの新薬の組み合わせ効果がどうなるのか楽しみですが、コストが大変そうです(記事をみる)。
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