以下は、記事の抜粋です。
海外の70か国以上で承認され、国内のすい臓がんの患者らが承認を求めていた抗がん剤「タルセバ」について厚生労働省の審議会は、5月30日、承認してもよいという意見をまとめ、来月にも承認される見通しになりました。
すい臓がんの抗がん剤は国内ではこれまでに2種類しか承認されておらず、患者や家族からは海外70か国以上で標準的な治療薬として使われているタルセバの承認を求める声が相次いでいました。これについて30日に開かれた厚生労働省の審議会は、専門の医師の指示の下で使用し、すべてのケースについて経過を調査をすることを条件に承認してもよいという意見をまとめました。
厚生労働省は、早ければ来月末にも正式に承認する方針で、タルセバ使用の際に保険が適用されることになりました。
上の記事では、国内で承認されていなかったすい臓がんの新薬が、今回初めて承認されることになったように書かれています。しかし、エルロチニブ(タルセバ®)は2007年から「切除不能な再発・進行性で、がん化学療法施行後に増悪した非小細胞肺癌」を「効能又は効果」として国内販売されています。今回は、「治癒切除不能な膵癌」が「効能・効果」に追加されただけです。
エルロチニブは、ロシュ傘下のGenentechによって開発された薬物です。ゲフィチニブ(イレッサ®)と同様にEGFR(上皮増殖因子受容体)チロシンキナーゼを特異的に阻害すると言われています。しかし、この「特異的に阻害する」という言葉を信じて、これらの阻害薬が特定のキナーゼだけを阻害すると考えるのは誤りのようです。
“A quantitative analysis of kinase inhibitor selectivity”という論文で、現存する全てのキナーゼ阻害薬が複数のキナーゼを阻害することが示されています(論文をみる)。具体的には、予測されるヒトタンパク質キノーム(全キナーゼ)の50%以上に相当する317種類のキナーゼと38種類のキナーゼ阻害薬の相互作用を調べています。
この論文に書かれている結果をみると、エロルチニブの方がゲフィチニブよりも特異性は低く、より多種類のキナーゼを阻害することがわかります。ちなみに、ゲフィチニブやイマチニブも複数のキナーゼを阻害し、イマチニブ抵抗性の消化管間質腫瘍と根治切除不能又は転移性の腎細胞癌に使用されるスニチニブ(スーテント®)は、約40種類のキナーゼと高親和性に結合し阻害するとされています。
関連記事に書いたように、慢性骨髄性白血病では、より多くの種類のキナーゼを阻害するダサチニブがイマチニブよりもよく効きます。より多くの種類のキナーゼを阻害する薬が、いつでもより効果的というわけではないと思いますが、より選択的、特異的な薬物が優れているという考えは誤りのようです。
関連記事
ゲフィチニブは、特定の肺がんには有効だが「夢の新薬」ではなかった。大阪のイレッサ訴訟結審
EGFR変異を伴う進行性肺小細胞がんに対するゲフィチニブ(イレッサ)と従来化学療法の比較
慢性骨髄性白血病:イマチニブよりも良く効くダサチニブとニロチニブ
コメント