以下は、記事の抜粋です。
プラセボ効果といえば偽薬が本物の薬だと信じていることから症状等が改善することを指すことが、偽薬だと説明されていても効果が表れることが実験で明らかになったそうだ(Medical Daily)。
この研究では過敏性腸症候群の患者80人を被験者として実験を行った。1グループには偽薬を処方し、もう1グループは対照群として投薬はしなかった。偽薬を処方されたグループには、それが偽薬であり薬効成分は何も入っていないことを説明し、容器にも「placebo(偽薬)」と記載したとのこと。
3週間に渡り経過を観察したところ、偽薬を処方されたグループの59%において症状緩和が確認された。対照群にて症状が緩和したのは39%であった。
偽薬を処方されたグループの改善率は、この症状に対する最も強い薬の効果に近かったとのことで、研究者らはその顕著な効果に驚いたという。
また、少数の被験者グループに対する効果であるとしながらも、十分に情報を伝えられた患者においても偽薬の効果が認められたことは今後さらに検証するに値するとした。このことはまた「医療行為そのものに何らかの大きな効果がある」ことを示しているのかもしれないとのことである。
元論文のタイトルは、”Placebos without Deception: A Randomized Controlled Trial in Irritable Bowel Syndrome”です(論文をみる)。
メルクマニュアルによると、過敏性腸症候群(IBS)の項には、「過敏性腸症候群は,様々な程度の腹痛,便秘または下痢,腹部膨満など,再発性の上部および下部消化管症状を呈する疾患である。原因は不明で,病態生理は十分に理解されていない。診断は臨床的に行う。」と書かれています(マニュアルをみる)。
また、同家庭版の診断の項には、「ときどき大腸の上に圧痛がみられることを除けば、診察では何の異常もみられません。医師は血液検査、便検査、S状結腸鏡検査などの複数の検査を行ってクローン病、潰瘍性大腸炎、コラーゲン性大腸炎とリンパ球性大腸炎、そして腹痛や便通の変化を起こすさまざまな病気と、過敏性腸症候群との違いを鑑別診断します。」と書かれています(マニュアルをみる)。
これらをみると、IBSには客観的な診断基準がないことがわかります。このようなIBSの特殊な病態のために、「騙さない」プラセボでも高い症状緩和率が得られたのだと思います。
現在、IBS治療薬として、抗うつ剤、抗不安剤、消化管運動調節薬、非コリン剤、緩下剤、止痢剤、整腸剤など実に様々な薬物が投与されています。しかし、おそらく明確なエビデンスのある薬はないと思います。むしろ、ビオフェルミンなどは「プラセボ効果」を狙って投薬されると意識すべきかもしれません。
ところで、IBS治療薬の1つラモセトロン(イリボー®)に構造が似ているアロセトロンは、虚血性大腸炎などの重篤な胃腸障害イベントを発生させることがあります(記事をみる)。このため、FDAはアロセトロンの投与対象を激しい下痢症状を示す女性だけに限定しています(FDA記事をみる)が、下の「IBS疾患啓発活動」という動画やおくすり110番をみると、日本では男性がラモセトロンの投与対象のようです。どちらも5-HT3受容体拮抗薬ですので少し気になりました。
アステラスの「IBS疾患啓発活動」
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