以下は、記事の抜粋です。
糖尿病などに関係するたんぱく質PPARγに、神経伝達物質セロトニンが結合すると脂肪蓄積の調節などが進むことを、大阪大などの研究グループが解明した。
PPARγは、脂肪酸と結合すると活性化し、糖の分解を行い、体重のコントロールや血中の糖の量を調節するきっかけとなる働きをする。現在の糖尿病治療では、この後、インスリンの機能をコントロールする薬を投与する。
研究グループは、たんぱく質などの結晶にX線をあて、セロトニンも脂肪酸と同じようにPPARγにくっついていることを発見。脂肪酸が結合した時と同じ働きをしていることを突き止めた。
元論文のタイトルは、”The nuclear receptor PPARγ individually responds to serotonin- and fatty acid-metabolites.”です(論文をみる)。
関連記事にも書きましたが、ロシグリタゾン(商品名:アバンディア)やピオグリタゾン(商品名:アクトス)などのチアゾリンジオン系抗糖尿病薬は、核受容体PPARγのアゴニストであると同時に、肝臓や筋肉などの臓器のインスリンに対する感受性を高める作用を持っています。
PPARγと書いて「ピーパーガンマ」と読むらしいことを先週の土曜日にはじめて知りました。ARBのテルミサルタン(商品名:ミカルディス)にPPARγ活性化作用がある(ので良い)という話を聞いたのですが、抗糖尿病効果を調べた臨床試験ではプラセボとの差がないという情報もあります。
さて、上の記事でははっきりと、「PPARγに、神経伝達物質セロトニンが結合する」と書いてありますが、論文ではそのようには書かれていません。論文のタイトルにもあるように、結合するのはセロトンの代謝産物です。具体的には、5-methoxy-indole acetate (MIA)という代謝産物が一番高い親和性を持っています。
インドール酢酸(indole acetate)構造が結合に重要のようで、インドール酢酸を持つNSAIDSであるインドメサシンもPPARγに結合します。インドメサシンの結合定数(KD)は9.73μM、MIAのKDは72.8μM、セロトニンのKDは933μMです。PPARγを介した転写活性化作用もインドメサシン、MIAの順で、セロトニンには活性化作用はほとんどありません。
15-oxoETEのような脂肪酸リガンドもPPARγに結合して活性化するのですが、結合するポケットがインドメサシンやMIAの結合するポケットとは異なるそうです。
論文を読んで浮かんだ疑問は、1)実験結果では、インドメサシンはどのセロトニン代謝産物よりもPPARγに対する親和性と活性化の程度が強いのですが、インドメサシンの抗糖尿病作用はどの程度か?2)関連記事でとりあげたCdk5によるPPARγのリン酸化とインドメサシンやMIAとの関連はどうか?などです。
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