以下は、論文要約の抜粋です。
Rtp801は、ストレスによって誘導されるタンパク質で、TSC1-TSC2抑制複合体を安定化することでmTORを抑制し、酸化ストレス依存性細胞死を促進することが知られています。
研究者らは、Rtp801は、ヒト肺気腫の肺とタバコの煙に曝されたマウスの肺で増加することを見出した。また、培養細胞でRtp801がNF-κBを活性化することを見出した。さらに、Rtp801をマウスの肺で強制発現すると、NF-κBの活性化、肺胞の炎症、酸化ストレス産生および肺胞中隔細胞の細胞死を促進することを見出した。
対照的に、Rtp801ノックアウトマウスでは、タバコの煙によって誘導される急性肺障害がほとんどおこらず、タバコの煙に慢性的に曝された場合でも肺気腫になりにくかった。原因の一部は、mTORシグナルの増強だと考えられた。
これらのデータは、Rtp801がタバコの煙によって誘導される肺障害の主要なセンサーかつメディエーターであるという考えを支持している。
Rtp801ノックアウトマウスが肺気腫になりにくいことは間違いないようです。また、mTORC1の阻害薬であるラパマイシンを投与すると、タバコの煙に曝さなくても野生マウスの肺で炎症をおこし、肺胞細胞のアポトーシスを増やしたので、mTORがこれらの現象に関与していることも間違いなさそうです。
しかし、ラパマイシンは、野生マウスのタバコの煙による炎症の増加やNF-κBのリン酸化を抑制するという働きもあって、mTORあるいはmTORC1の関与は単純ではなさそうです。
この論文の結果を前提とすると、Rtp801依存的なNF-κBの活性化を阻害すれば肺気腫が治療できるかもしれません。実際、IκBキナーゼβ(IKK-β)阻害剤「IMD-1041」は、COPD(慢性閉塞性肺疾患)をターゲットにしています(関連記事1)。IKK-βを阻害すると、IκBがNF-κBを抑制し続けることになりますので、論文結果と話は合っています。
その他のNF-κB阻害薬については、関連記事2に書きましたので、参考にしてください。また、Rtp801の発現を阻害するsiRNAについては、Quark Pharmaceuticalという会社が特許を取得しているようです(記事をみる)。
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