Randomised prostate cancer screening trial: 20 year follow-up
以下は、論文要約の抜粋です。
目的:前立腺がんスクリーニングの前立腺がんによる死亡率への影響を調べる。
方法:スウェーデンのNorrköpingに住む50-69歳の男性1494人を対象に、1987年から1996年まで、3年ごとの前立腺がんスクリーニングが前立腺がんによる死亡を減少させるかを無作為化比較試験で検討した。最初2回のスクリーニングは、直腸診だけで行い、1993年以降は直腸診に加えて、4µg/Lをカットオフ値とするPSA(prostate specific antigen)検査を行った。前立腺がんによる死亡は2008年12月まで調べた。
結果:スクリーニング群の前立腺がん死亡リスク比は1.16、コックス比例ハザード分析を用いて、前立腺がん特異的生存率を対照群とスクリーニング群で比較した時の前立腺がん死亡ハザード比は1.23だった。
結論:20年フォローアップした結果、スクリーニング群とコントロール群の間で前立腺がんによる死亡率に有意差はなかった。
がんは早期発見して早期治療した方が良いというのは常識だとされています。前立腺がんの場合も、同じように考えられており、感度の良いPSA検査で早く発見し、手術や放射線治療をするのが良いと考えられていました。特に、PSA検査が紹介され、早期発見して根治的前立腺摘出術を施行すれば前立腺がんによる死亡率が低下すると報告されてからは、PSA検査がさかんに行なわれるようになりました。
しかし、関連記事に紹介したように、この検査法を開発した米アリゾナ大学のRichard Ablin教授自身が、この検査法の有用性は小さく保険財政を圧迫していると指摘したことで、大きな議論が起きました。
スクリーニングでPSA値が高いとバイオプシー検査を受けることになります。バイオプシーでがんを疑わせる所見がみつかれば、ほとんどの患者は手術、放射線照射などの侵襲的治療を受けることになります。これが、過剰検査・過剰治療(overdiagnosis and overtreatment)だとして批判されています。というのは、前立腺がんの大部分は進行が遅く、死に至るのはわずか3%だからです。
実際、アメリカで行われた7-10年間にわたる調査では、PSA検査による前立腺がんスクリーニングは、55歳以上の男性の死亡率を減少させなかったという結果でした(論文をみる)。今回の論文で、20年フォローアップしてもやはり同様の結果だったということがわかりました。
以前にも書きましたが、高齢者に発生する前立腺がんの25%から半数程度は、寿命に影響を及ぼさないと考えられています。つまり、バイオプシーやその後の治療を積極的に行う意味がない症例がかなり存在することになります。検査と治療のリスクと限界について、患者さんに良く説明し理解を得ることが重要だと思われます。
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コメント
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ちゃんとした科学的根拠に基づく治療がだいじなわけですね。この研究結果をみた泌尿器科の先生方はどうされるのでしょうかね?
今騒がれている放射性物質に関しても、いたずらに不安が蔓延している気がします