DISC1の子宮内ノックダウンは、出生後の前頭葉ドパミン神経成熟を混乱させ、行動異常へ導く。

統合失調症、発症のメカニズム解明…治療薬に道

例によって、針小棒大な「釣り見出し」ですが、なかなかおもしろい実験だと思いました。以下は、記事の抜粋です。


統合失調症の一部は、胎児期の脳神経系の発達障害が原因であることが、マウスを使った実験で明らかになった。新たな治療薬の開発などに役立つと期待される。2月25日付の科学誌「ニューロン」に発表した。

統合失調症は、幻覚や妄想が生じて思考が混乱したり、感情が不安定になったりする病気で、100人に1人程度発症する。脳神経系の発達に問題があると、成長後にストレスが引き金となって発症すると考えられていたが、詳しいメカニズムは分からなかった。

研究者らは、統合失調症の候補遺伝子で、神経系の成長を促す「DISC1」に着目。脳が形成される出生5日前の胎児のマウスで、脳のDISC1を一時的に働かないようにすると、成長したマウスは音に過敏に反応したり、認知機能が低下したりするなど、統合失調症に特有の症状を示した。脳の神経細胞の数は正常だが、回路が未熟で、機能が低下していた。統合失調症の治療薬の投与で症状は改善した。


元論文のタイトルは、”Knockdown of DISC1 by In Utero Gene Transfer Disturbs Postnatal Dopaminergic Maturation in the Frontal Cortex and Leads to Adult Behavioral Deficits.”です(論文の要約を見る)。第1著者と第2著者がequally contributedで、corresponding authorが2名!という珍しい論文です。

元記事によると、corresponding authorの1人、鍋島教授は、「統合失調症の特徴をここまで再現したマウスはなかった。治療薬の開発に役立てたい」と話しているそうですが、マスコミへの迎合が一般読者の誤解を招くとは思わないのでしょうか?

もう1人のcorresponding author、Sawa教授は、Paper Flickの動画で論文紹介をしています。こちらは、アメリカで活動している日本人PIのようです(Paper Flickをみる)。

DISC1というタンパクをコードする遺伝子は、スコットランドの統合失調症多発家系の遺伝学的解析により、第1染色体と第11染色体の相互転座が頻発している遺伝子として発見され、Disrupted-In-Schizophrenia 1 (DISC1) と名づけられました。

また、SNP解析から、DISC1のSNPが統合失調症に密接に関与することが報告されています。このような「統合失調症感受性遺伝子」は、これまでに約10種類が報告されています。

DISC1は、Kinesin-1、14-3-3ε、NUDEL、LIS1などの複数の蛋白質と結合することもわかっています。これらの結果から、DISC1は、14-3-3、NUDEL、LIS1などをkinesinが運搬する時のカーゴリセプターとして働くと考えられています。

この実験が面白いのは、受精卵操作によるノックアウトやノックイン、あるいはトランスジェニックマウスではなく、子宮内胎児をとり出して、脳室にノックダウン(RNAi)用のベクターを注入し、電気刺激による細胞内導入をした後、子宮に戻して生育させたマウスを調べる点です。この方法は、SawaグループのKamiya博士らによって開発されたようです。

GFPをマーカーとしているので、どの部位のDISC1がノックダウンされたかがわかります。神経発生学研究の手法として役に立ちそうです。
それにしても、「解明」や「明らかになった」ということばを、簡単に使わないで欲しいと思います。

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