サル痘に対する天然痘ワクチンの効果、期待と現実

「サル痘に天然痘ワクチンが効く」は定説ではない、絡む期待と謎
以下は、記事の抜粋です。


サル痘は、1958年にデンマークの研究施設で飼育されていたサルで発見された。1970年には、ザイール(現在のコンゴ民主共和国)でヒトの感染例が初めて報告された。サル痘は天然痘よりも感染力が弱く、危険性も低い。WHOによると、近年の患者の死亡率は3~6%にとどまっているが、天然痘と違って動物の間で感染が広まるので、撲滅は非常に難しい。

初期の研究では、天然痘ワクチンを接種した人はサル痘にかかりにくくなる可能性が示唆された。1988年にザイールの研究者たちが医学誌「International Journal of Epidemiology」に発表した論文は、天然痘ワクチン接種の有無によってサル痘の発症率を比較したところ、天然痘ワクチンはサル痘に85%の予防効果があると結論づけている。

オーストラリア、ニューサウスウェールズ大学のレイナ・マッキンタイア氏によれば、従来、サル痘のアウトブレイクはまれで規模も小さく、症例数は1桁か2桁台だったという。しかし、近年はその傾向が変化しつつある。コンゴ民主共和国では、2006〜2007年の単位人口あたりのサル痘の感染例が1980年代の20倍に増加していた。特に天然痘ワクチンの接種を受けたことがない若い世代で感染者が多かった。

「2017年にはナイジェリア、次いでコンゴ民主共和国で、非常に大規模なアウトブレイクが発生し始めました」と氏は説明する。氏らは2017〜2020年のナイジェリアのアウトブレイクを調査し、症例の増加が人々の免疫低下と関連していることを突きとめた。天然痘ワクチンの接種を受けたことがない若い世代や、接種から数十年経過して免疫が低下している高齢者の割合が国内で増加していたのだ。

それでも、天然痘ワクチンがサル痘を予防するというのは定説ではないと、コロンビア大学のワファー・エルサドル氏は言う。こうした研究では、天然痘ワクチンの接種を受けた高齢者がサル痘に対してある程度の免疫を保有している可能性が示されているものの、「この説を決定的に裏付けるデータは何もありません」と氏は話す。

新しいワクチン「ジンネオス」に関しては、特にデータが不足している。今のところ、ジンネオスのサル痘に対する有効性は、ヒトではなく動物を対象とした研究でしか示されていないとエルサドル氏は指摘する。子どもはサル痘に感染すると重症化しやすいが、子どもにジンネオスを接種しても安全かどうかも明らかではない。また、米国では、ワクチンの投与可能回数を増やすために、FDAがジンネオスについて従来の皮下注射に加え、少量のワクチンですむ皮内注射による接種を認める緊急使用許可(EUA)を発表したが、この方針を支持するデータも乏しい。

とはいえ、エルサドル氏も「答えが出ていない疑問点は数多くありますが、私たちをほぼ確実にサル痘から守ってくれるワクチンがあることは幸いです」と期待はしている。

ワクチンの接種が必要な人は? 定期接種の可能性は?
サル痘のアウトブレイクが発生したとはいえ、天然痘のワクチン接種が再び定期接種の対象になるわけではない。どのワクチンでも、リスクとメリットの双方を吟味して接種の是非を判断することが重要だ。

ジンネオスは、体内で複製するウイルスを使用していないので、旧世代のワクチンよりも安全性は高いと考えられる。だが、インフルエンザに似た症状やアレルギー反応など、ある程度の副反応のリスクはある。さらに、サル痘は、男性同士の性交渉による感染が圧倒的に多いため、その他の人々の感染リスクは低い。「(ワクチン接種を受ける)メリットがないならば、リスクを冒す価値はありません」とポーランド氏は話す。

また、専門家によれば、新型コロナワクチンのように急いでワクチンを配分する必要もない。天然痘ワクチンはウイルスにさらされた後に接種しても効果があるので、感染した恐れがある人への接種を優先するのが理に適っている。

言うまでもなく、リスクとメリットの判断は、今後の動向によって変わる可能性がある。「サル痘の感染が限定的で、アウトブレイクの拡大を阻止することができるなら、ワクチン接種を誰にでも推奨することはまずないでしょう」とエルサドル氏は話す。

だが、米国がサル痘の封じ込めに失敗した場合、特にサル痘が動物に流出してエンデミック(一定地域で継続的に流行が持続する状態)になった場合は、おそらく大規模なワクチン接種が必要になるだろう。また、子どもは大人よりも感染した場合のリスクが高いので、子どもの間で感染が拡大し始めた場合には、ワクチン接種の推奨条件も変わる可能性がある。

エルサドル氏は、そうした事態にならないと信じている。「幸いにもサル痘は天然痘とはかなり違いがありますし、感染した結果にも格段の差があります」と氏は話す。「確かにサル痘のアウトブレイクが発生しているのは懸念される事実です。しかし、検査体制は整備され、ワクチンも用意され、増産も可能です。治療法もあります。これは幸運なことと言えるでしょう」


私は、接種から数十年経過して免疫が低下している高齢者ですが、上の下線部分の記載が正しければ慌てて打つ必要はないと思います。

1955年10月2日、天然痘ワクチンの接種を受けるフランスモデル協会のメンバーたち。集団ワクチン接種キャンペーンが功を奏し、天然痘は1980年に撲滅された。現在では定期接種されることはなくなったが、サル痘のアウトブレイク(集団感染)で再び需要が高まっている。

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