風向きや風速が変わっても夜にまっすぐ飛べる蛾

風向きや風速が変わっても夜にまっすぐ飛べる蛾、どうやって?
以下は、記事の抜粋です。


大型のガの仲間であるヨーロッパメンガタスズメ(Acherontia atropos)の背中には髑髏(どくろ)のような模様がある。この昆虫の夜間飛行の追跡に、このたび科学者がついに成功した。夜に飛ぶ昆虫の個体を追跡するなど不可能だとかつては考えられていた。

最も衝撃的な発見は、ヨーロッパメンガタスズメがドイツのコンスタンツにある空港から、スイスのアルプス山脈まで約90kmも飛び続けたことだ。これは昆虫の個体の移動における最長記録だ。また、長い渡りをする昆虫で初めて、風向きや風速が変わってもまっすぐ進む「完全補償能力」をもっていることも明らかになった。

このガは通常秋にヨーロッパから南の繁殖地へと移動し、次の世代が春に再びヨーロッパへと戻ってくる。北ヨーロッパから地中海沿岸、さらにはサハラ以南のアフリカまで、季節移動する距離は3800kmに及ぶ。

蛾は、ドイツのコンスタンツからアルプスまで追跡されました。

研究者らは、とても小さい無線送信器をヨーロッパメンガタスズメに背負わせ、夜に放って、夜行性のヨーロッパメンガタスズメが毎年南へ渡る間の様子を小型飛行機で一晩追跡した。

ヨーロッパメンガタスズメの体重は3.5gと飛ぶ昆虫としては重い。成虫の体重の15%にも満たない0.2gの小さな無線タグが固定された。

他の多くの昆虫に比べ、ヨーロッパメンガタスズメは飛ぶのが速く、最高速度はなんと時速約70kmだ。とはいえ、もっと高速でしか飛行できない飛行機で追跡するために、300m以上離れているガをアンテナが検知した時に発する独特のアラーム音を聞きながら、科学者たちは何度も円を描くように飛行してガに足並みを合わせた。

論文の最終著者であるマーティン・ウィケルスキー氏は、同僚が1~2匹のガを地上に放つ間、セスナ機を操縦することができた。筆頭著者であるマイルス・メンツ氏が無線で「ガを放ったぞ!」と言うと、ウィケルスキー氏はアラーム音に耳を傾け始めた。

ウィケルスキー氏はコウモリやトンボにもこの方法を用いて研究を成功させている。しかし、ヨーロッパメンガタスズメでこの方法が成功したのは、無線送信器の小型化が進んだことと、ほとんどの一般的なガに比べて体が大きく、空き缶の見た目よりも翅が広いためだった。

昆虫は移動する際に風によってコースを外れてしまうと、科学者たちは長い間思っていた。そこで、ウィケルスキー氏は初めて空を飛ぶとき、搭載された計器で風向きと風速を測定し、ヨーロッパメンガタスズメが移動する方向を想定したコースをプロットした。しかし、実際に試してみると、すぐにこのガを見失ってしまったのだ。

「そのとき、ああ、ヨーロッパメンガタスズメはまだあそこにいるんだ、と気付いたのです」と氏は言う。「風がどうであろうと、彼らはまっすぐ、絶対にまっすぐ進んでいることに気付きました」

ヨーロッパメンガタスズメは、向かい風のときは、地表に近い低いところを飛びながら速度を上げていた。一方で、追い風のときは、追い風による加速をうまく利用するために高度約300mまで上昇したが、その過程で飛行速度は減少していた。つまり、自身のスピードと方向感覚のバランスを注意深くとっているように見えた。他のいくつかの昆虫と同様、ヨーロッパメンガタスズメの体内コンパスは磁気と視覚、そしておそらく嗅覚の組み合わせによって調整されているのではないかと、科学者たちは推測している。

昆虫の渡りを研究している科学者にとって、個体を追跡する可能性がでてきたのは画期的だ。なぜなら、個体追跡により、今まで推測でしか答えられなかった疑問に答えられるようになるからだ。

「どの程度の速度で飛べるのか、どこで立ち止まるのか、何を食べているのか? これらの疑問に対する答えは今まで推測にすぎませんでした。ですが、今回初めてこのような疑問のいくつかに対して、実際のデータを手に入れることができたのです」とタラベラ氏は言う。

NASAとヨーロッパの宇宙機関が提携して、2028年に新たな衛星のペアを軌道に乗せる計画がある。この衛星により、科学者はガやトンボなどの大きな個々の昆虫が一晩飛んでいる様子だけでなく、世界中を飛び回る様子を追跡できるようになる予定だ。


元論文のタイトルは、”Individual tracking reveals long-distance flight-path control in a nocturnally migrating moth(個体の追跡により、夜行性のガの長距離飛行経路制御が明らかになった)”です(論文をみる)。

この蛾はかなり大きそうですが、アサギマダラのように海を渡る蝶もいます(記事をみる)。今回の研究で、この蛾が目的地に向かって一気に100kmぐらいほぼまっすぐに飛ぶということがわかりました。親から何も教わらずに幼虫から蛹、蛹から蛾や蝶になって飛ぶだけでもすごいのに、飛行経路も誰にも教えられていないはずです。これもDNAに刻まれているのでしょうか?

アブラゼミのような形をしています。

ヨーロッパメンガタスズメ(Acherontia atropos)

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