ライオン、群れの王はメス 映画と違う野生の掟 まるで実写の映画『ライオン・キング』。しかし現実のライオン世界は何もかも反対だ
以下は、記事の抜粋です。
ライオンの群れはメスで構成されている。メスが群れの食料の大半を調達し、侵入者からなわばりを守る。その「侵入者」も、なわばりの拡大を狙う、近くの群れのメスライオンだ。
世界的なライオン研究の権威で、ミネソタ大学ライオン研究所所長のクレイグ・パッカー氏は、「メスのライオンは群れの核です。メスこそが「プライド」と呼ばれるライオンの群れの中心です。オスのほうは、群れにやってきたり出ていったりを繰り返します」と話す。
ところで、映画『ライオン・キング』の熱心なファンでもなければ、主役シンバや父のムファサ、宿敵スカーの名を覚えていても、母親の名前は覚えていないだろう。映画では、重要で印象的な役はオスに与えられている。シンバは王となる宿命にあり、シンバの父ムファサは王位を狙うシンバの叔父、黒いたてがみのスカーによって殺害される。ところが、シンバの母親と言えば、名前を思い出せないくらい印象は薄い。
シンバの母親の名はサラビといい、映画の中では単なる脇役だ。しかし、もしサラビが現実のライオン世界いれば、彼女こそが群れの女王で主役なのだ。ライオンの群れは母系社会だ。実際にオスが群れと行動を共にする時間は非常に短く、ディズニー映画のように家族との絆を築くことはないだろう。
「群れのなわばりの範囲を決めるのはメスです。」と、パッカー氏は言う。もし、群れの規模が大きくなりすぎた場合は、メスたちがすぐ近くに新しいなわばりをつくり、そこに娘たちが独立した群れを作る。つまり、ライオンの群れに所属する個体は、99パーセントが血縁関係にあるメスたちなのだ。
オスのほうは、メスとは逆に1カ所にとどまらない。彼らは群れに入ったり出たりを繰り返し、大半の時間はオス同士で争ったり、群れを離れたばかりのオスの子ライオンたちに、どうやって生き延びればいいかを教えたりして過ごす。オスは自分が生まれた群れに留まることはできない。
「映画では、群れに戻って英雄となったシンバが手にする最高の贈り物はナラとの結婚です。しかし、現実のライオン世界では、ナラはシンバと兄弟姉妹のはずなのです」とパッカー氏は言う。「しかも、戻ったシンバが群れに留まれば、彼が交尾をする相手はナラだけではなく、叔母、母親、祖母、いとこなど、群れに所属するすべてのメスが、彼と交尾することになります」
ライオンのオスは単独では暮らさない。群れをめぐる争いは熾烈で、互いの身を守るために、オスは必ず1頭以上のオスと行動を共にするのだ。そうなると、ムファサとスカーの争いは、現実のライオン世界においては道理が通らない。2頭は互いに支え合わなければ、自分たちの群れが他の団結したオスたちに乗っ取られるだけだからだ。
群れをめぐる争いは本当に厳しい。オスの集団が1つの群れのそばにいられるのは2〜3年がせいぜいだという。群れにとってオスは「循環する存在」だ。彼らは子供を作り、他のオスをできるだけ長く寄せ付けないためだけに戦い、敗北すれば、別の群れを求めて移動する。
メス同士の絆は、群れの近くにどのオスがいても変わらない。メスはまた、どういうオスにそばにいてほしいかを決める。
パッカー氏は、映画に登場する子供のいない悪役スカーが黒いたてがみをしていることの不思議さを指摘する。メスライオンは黒いたてがみを好む。現実のライオン世界であれば、黒いたてがみを持つべきなのはムファサのほうだからだ。
黒いたてがみは、その個体の健康状態が優良で、テストステロンのレベルが高いことを示している。たてがみの色は遺伝によるのではなく、その個体がどれだけ長く健康を保っているかで決まる。体調が悪ければ、たてがみは抜け落ちることもある。つまり、オスにとってのたてがみこそ、個体の優秀さを示すシグナルということになる。
このように、現実のライオン世界では、オスの外見から群れに関することまで、すべて「ライオンの女王たち」を中心に決まっているのだ。
だからこそ、オスたちは必ず自分の群れを出て、新しい群れを見つける。そうすることで、家族と交尾をすることを避け、遺伝的多様性を保っているのだ。「シンバも群れを離れたら、二度と戻って来ないのが本当のライオンの世界です」
以下は、「実写版」のライオンキングの予告編動画です。これだけ実態と違うものを本物っぽく見せられたヒトは、間違いなくライオンについて誤った知識を持つようになると思います。
コメント