ばかげた法律

An absurd law: Turkey’s government is about to pass legislation that could cripple the country’s biological research.

Natureの2月25日号に載っているEditorialです。以下は、その和訳です。


ばかげた法律:トルコで予定されている遺伝子組換え生物の包括的規制法案が可決されれば、生物医学研究に大打撃を与えるだろう。

遺伝子組換え生物(genetically modified organisms、GMOs)に対する大衆の不信感に政治家が迎合する場合、さまざまな科学の分野で遺伝子組換え技術がどの程度深く浸透しているかを理解していないことがよくある。

その典型的な例が、今トルコでおきている。農業においてGMOsを規制しようとする政治運動の結果、トルコの生命医学研究を全滅させてしまうかも知れない法案が成立しようとしている。

ほとんどのトルコの科学者たちは、このような状況をほんの数週間前に気づいた。一部の科学者たちは、すぐに法案に反応し、会議を開いて嘆願書を出し、国会でのロビー活動によって、成立を阻止しようとしている。

しかし、今週中に変更されないままの法案が投票・可決されようとしている。皮肉なことに、現在トルコの多くの大学は、生命医科学的研究を拡大中である。

その法案の草案は、トルコがバイオセイフティーに関する「カルタヘナ議定書」を2000年に批准したことがきっかけで作られた。当議定書は、批准国に対して、生物多様性あるいはヒトの健康に悪影響を及ぼす可能性があるGMOの国際取引、取り扱いおよび使用を規制する法律の制定を求めている。

トルコはEUへの加盟を希望しており、そのEUの法律とマッチしたものを作ろうとしていた。最初の草案は、トルコの研究者協会、TÜBİTAK、の考えに基づいて準備された。その内容は、ヨーロッパの規制にあわせて、GMOsの環境への意図的な放出、遺伝子組換え作物の栽培、GMOsの研究室内での使用、の3つに区別する考えに従っていた。

ところが、政権交代がおこり中道イスラム政党のAK党が政権を担当した。それに伴って、法案作成の責任は、環境省から農業省へ移った。農業省は分子生物学者に相談しない役所らしい。数年を経て草案は形を変えた。同時に、大衆の間では、遺伝子組換え技術、特に遺伝子組換え食品に対する反対が強くなった。

今回投票が行われようとしている法案では、GMOsの環境への意図的な放出と研究室内での使用が区別されていない。その中では、安全性が認められていてもいなくても、遺伝子組換え作物の栽培は全面的に禁止されている。遺伝子組換え動物や微生物の作成も禁止されている。

その法案は、GMOsを用いる研究や遺伝工学による生物生産は禁止しているわけではないが、現実的には、これらの研究をすることが不可能になってしまう。研究中の1つ1つの実験について、農業省役人を委員長とする委員会での承認が必要となり、それぞれの申請を専門家の助けを得て検討するのに90日はかかるという。

委員会は、何トンもの食料用遺伝子組換え大豆を輸入するための申請の許可に対して責任をもつと同時に、細胞への遺伝子導入のために標準的なプラスミドを使うようなすべての実験についても責任をもつことになる。マウス、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエ、微生物などのモデル生物を用いた実験は事実上できなくなるだろう。研究者が最も簡単な実験の許可を得るのに3ヶ月待つことができたとしても、委員会は多くの申請処理に忙殺されるだろう。あるトルコの研究者が法律を調べたところ、彼の研究室だけでも、1年間に50程度の申請を行う計算になるそうだ。

このような重要な法案が、その成立によって影響をうけるであろうすべての研究者コミュニティーとの相談なく準備された事は残念だ。もう一つ残念な事は、政府に近くかつ科学的な興味を守るべき立場にあるはずのTÜBİTAKが、これまでのところ沈黙していることだ。トルコ科学アカデミーは、方針説明書を準備する計画があるそうだが、動きがおそすぎる。

トルコの科学者達は、個々のロビー活動が、議会での投票に影響することを望むことしかできない。当局は、法律は研究には影響しないと主張しているが、それは誤りで、法案制定による影響は計り知れないほど大きい。トルコ政府は、脆弱な自国の研究基盤を傷つけたくないと思っているはずだが、この法制化によってうける大きな影響をしっかり認識すべきである。


日本でも「カルタヘナ議定書」を受けて法律が制定されています。幸い日本の法律は、トルコで予定されているものよりも科学研究に配慮されたものですが、大学の中には、トルコの法律に近い規則を定めて、自主的に研究を抑制しているところもあります。

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