抗菌薬(いわゆる「抗生物質」)は咳の持続期間や重症度の軽減に効果なし

抗菌薬は咳の持続期間や重症度の軽減に効果なし
以下は、記事の抜粋です。


咳の治療薬として医師により抗菌薬が処方されることがある。しかし、たとえ細菌感染が原因で生じた咳であっても、抗菌薬により咳の重症度や持続期間は軽減しない可能性が明らかにされた。

ジョージタウン大学のMerenstein氏は、「咳の原因である下気道感染症は悪化して危険な状態になることがあり、罹患者の3%から5%は肺炎に苦しめられる」と説明する。同氏は、「しかし、全ての患者が初診時にレントゲン検査を受けられるわけではない。それが、臨床医がいまだに患者に細菌感染の証拠がないにもかかわらず抗菌薬を処方し続けている理由なのかもしれない」と述べている。

今回の研究では、咳または下気道感染症に一致する症状を理由に米国のプライマリケア施設または急病診療所を受診した患者718人のデータを用いて、抗菌薬の使用が下気道感染症の罹患期間や重症度に及ぼす影響を検討した。

ベースライン時に対象患者の29%が抗菌薬を、7%が抗ウイルス薬を処方されていた。最も頻繁に処方されていた抗菌薬は、アモキシシリン/クラブラン酸、アジスロマイシン、ドキシサイクリン、アモキシシリンであった。このような抗菌薬を処方された患者とされなかった患者を比較した結果、抗菌薬に咳の持続期間や重症度を軽減する効果は認められないことが示された。

研究グループはさらに、検査で細菌感染が確認された患者を対象に、抗菌薬を使用した場合と使用しなかった場合での転帰を比較した。その結果、下気道感染症が治癒するまでの期間は両群とも約17日間であったことが判明した。

研究グループは、「抗菌薬の過剰使用は、危険な細菌が抗菌薬に対する耐性を獲得するリスクを高める。医師は、下気道感染症の中に細菌性下気道感染症が占める割合を過大評価しているのだろう。また、ウイルス感染と細菌感染を区別する自身の能力についても過大評価している」と話す。

一方、「咳が深刻な問題の指標になり得ることは分かっている。咳は、外来受診の理由として最も多く、年間の受診件数は、外来では約300万件、救急外来では約400万件以上に上る」と話す。その上で「重篤な咳の症状とその適切な治療法は、おそらくはランダム化比較試験によりもっと詳しく研究される必要がある。なぜなら、今回の研究は観察研究であり、また、2012年頃からこの問題を研究したランダム化比較試験は実施されていないからだ」と述べている。


元論文のタイトルは”Antibiotics Not Associated with Shorter Duration or Reduced Severity of Acute Lower Respiratory Tract Infection(抗生物質は急性下気道感染症の罹病期間の短縮や重症度の軽減とは無関係であった)”です(論文をみる)。

肺炎の多くは細菌の感染でおこるので抗菌薬が有効だとすると、この研究は肺炎を伴わない咳が非常に多いことを示唆しています。以下は、越井クリニックさんによる日本呼吸器学会 「咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019」のまとめです(オリジナルページをみる)。とても役に立ちそうですが、この論文によると1つ目の図は間違っている可能性があります。

急性咳嗽と遷延性・慢性咳嗽

なぜ咳がでるのか

咳嗽とは、気道内に貯留した分泌物や異物を気道外に排除するための生体防御反応です。

咳嗽の臨床的な分類

咳嗽は持続期間により、3週間未満の急性咳嗽、3週間以上8週間未満の遷延性咳嗽、8週間以上の慢性咳嗽に分類する。

急性咳嗽の原因の多くは感冒を含む気道の感染症であり、持続期間が長くなるにつれ感染症の頻度は低下し、慢性咳嗽においては感染症そのものが原因となることはまれです。

咳嗽は喀痰の有無によって、喀痰を伴わないか少量の粘液性喀痰のみを伴う乾性咳嗽と喀痰を伴い、その喀痰を喀出するために生じる湿性咳嗽とに分類される。乾性咳嗽の治療対象が咳嗽そのものであるのに対して、湿性咳嗽の治療は気道の過分泌の減少です。

咳嗽の原因疾患

急性咳嗽の原因疾患は多岐にわたるが、臨床的に遭遇する頻度が最も高いのはウイルス性の普通感冒です。

遷延性・慢性咳嗽の原因疾患は咳喘息、アトピー咳嗽、感染後咳嗽、副鼻腔気管支症候群、胃食道逆流症などです。

 

フローチャート① 黒矢印 成人急性咳嗽への対応

フローチャート② 黒矢印 成人遷延性・慢性咳嗽への対応
※1: 肺結核などの呼吸器感染症、肺がんなどの悪性疾患、喘息、COPD、慢性気管支炎、気管支拡張症、薬剤性肺障害、心不全、鼻副鼻腔疾患など。
※2: 喀痰塗抹・培養(一般細菌、抗酸菌)、細胞診、細胞分画や胸部CT検査、副鼻腔X線またはCT検査を施行。副鼻腔炎については、好中球性炎症を主体とする従来型副鼻腔炎と、抗酸球性副鼻腔炎がある。抗酸球性副鼻腔炎はJESRECスコアで疑い、耳鼻咽喉科専門医に診断を依頼する。

(日本呼吸器学会 咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019より抜粋、一部改変)

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