糖尿病標準診療マニュアル2023

第64回 日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会『糖尿病標準診療マニュアル2023(第19版)』速報 ~腎関連の変更あり~
以下は、記事の抜粋です。


毎春、アップデートされている日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会の『糖尿病標準診療マニュアル(一般診療所・クリニック向け)』の最新版(2023年4月1日発行)1)が公開されました。

薬剤選択順位の遷移(図)


[ステップ1]
ビグアナイド薬(メトホルミン)にゆるぎはありません。心血管疾患をアウトカムとしたランダム化比較試験(RCT)は欧米発が主体ですが、有意なリスク低下を示すRCTは中国からもすでに発表されており、日本人への適応性は複数の観察研究で示されています。

[ステップ2]
DPP-4阻害薬とSGLT-2阻害薬も、前版(第50回参照)での位置づけから変わっていません。後者については、心血管疾患の二次予防効果や心不全入院リスクの低下や腎アウトカム改善を示すエビデンスが続出しております。SGLT-2阻害薬を積極的に投与開始してよい条件として、「心血管疾患の既往、心不全、 微量アルブミン尿・蛋白尿」のほかに「肥満」が加わりました。

なお、前版と同様に「ステップ1」の薬剤を処方できない場合は、「ステップ2」から開始します。

[ステップ3]
オプションとして本文中に記載されている経口GLP-1受容体作動薬とテトラヒドロトリアジン系薬は、まだ長期的な効果と安全性を示すエビデンスがないため前版と同じ序列です。

腎機能に応じた推奨変更が多数あり
eGFR値や腎関連エビデンスを勘案して、以下4点の推奨変更・追加が行われました。

① ビグアナイド薬の休薬期間の緩和
ヨード系造影剤使用(血管内投与)時にビグアナイド薬を服用していると乳酸アシドーシスのリスクが高まる懸念があるため、前版までは48時間前からの事前休薬が推奨されていました。しかし、腎機能が正常であればそのリスクが増加する可能性は非常に低いことが判明したため、国内外のガイドライン7に倣い休薬期間が変更になりました。なお、eGFR<30mL/分/1.73m2では、ビグアナイド薬はそもそも投与禁忌です。

② SGLT2阻害薬の開始・継続条件の変更
以下の推奨が追記されました。eGFR<15mL/分/1.73m2では新規に開始しないこと
継続投与してeGFR<15mL/分/1.73m2となった場合には、副作用に注意しながら継続すること
腎不全と透析例には使用しないこと

③ 糖尿病性腎症の新規治療薬追加
ACE阻害薬またはARBによる治療への上乗せ薬として、非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬であるフィネレノンの投与を考慮することが新たに推奨されました。

④ フィブラート処方例の変更
前版まで処方例として挙げられていたフェノフィブラートに代わり、今版からはペマフィブラートが紹介されました。前者は腎機能低下している場合は投与禁忌ですが、後者は慎重投与が可能だからです。生活習慣改善によっても中性脂肪値400mg/dL以上が持続するなら膵炎予防のために投与が推奨されます。治療目的を見直しましょう。


「ステップ1」の薬剤を処方できない場合は、「ステップ2」から開始します。についてですが、日本糖尿病協会のメトホルミンの適正使用に関するRecommendationには、1) 腎機能障害患者(透析患者を含む)、2) 脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取など、患者への注意・指導が必要な状態、3) 心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者、4) 高齢者に対しては、ステップ1のメトホルミン投与について慎重になるように書かれています。

中年の比較的軽症の2型糖尿病の患者で、どう考えても「ステップ1の薬剤=メトホルミン」が処方できないと思えないヒトにいきなり「ステップ2」を投与されている場合によく遭遇します。中には、カナリア®配合錠(DPP-4阻害薬とSGLT-2阻害薬が配合)がいきなり投与されていて驚いたことがあります。不勉強な医者が多いとつくづく思います。

カナリア®配合錠は、テネリグリプチン(テネリア®錠)20mgとカナグリフロジン(カナグル®錠)100mgの合剤で、薬価は300.3円/錠です。メトホルミンは先発薬のメトグルコ®錠でも250mg1錠:10.1円/錠、500mg1錠:11.6円/錠です。保険財政が苦しくなるのは当然です。

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