以下は、記事の抜粋です。
ジゴキシン(ジギタリス製剤)を一部の化学療法薬と併用すると、癌を死滅させる効果が向上することが、フランスのグループによって報告された。強心配糖体と呼ばれるこのタイプの薬剤は、数十年も前から心不全の治療に利用されている。
この効果は、Laurie Menger氏の研究チームが、患者の医療記録を詳細に調べた際に初めて認められた。研究グループは、化学療法を受けている患者で、心臓病薬を併用する患者の経過が、併用していない患者よりも良好であることに気付いた。死滅した癌細胞がこのような薬剤によって腫瘍細胞を攻撃する免疫系刺激誘発因子に転換されるためであろうと述べている。
研究グループはさらに、このような効果のある薬剤を確認するスクリーニング法も開発しているという。「この知見は、癌を効果的に治療するためには免疫系と化学療法が同時に作用することが重要であるという考えを再確認させるものでもある。」と、米国癌協会のWilliam Chambers氏は述べている。
心臓の健常な癌患者に強心配糖体を使用することによる影響については不明である。米レノックス・ヒル病院のKirk Garratt氏は、「薬剤の効果が、心臓が健常な癌患者にとっては副作用となる可能性がある」と指摘する一方、「しかし現在のところ、研究を進めるうえで問題になるとは考えていない」と述べている。
Garratt氏によると、現時点で化学療法を受けている患者にこのような薬剤を追加することは時期尚早だが、心疾患患者にとっては安全な薬剤であるという。
元論文のタイトルは、”Cardiac Glycosides Exert Anticancer Effects by Inducing Immunogenic Cell Death”です(論文をみる)。
一部の化学療法薬とは、アントラサイクリン系薬剤やオキサリプラチン (oxaliplatin, L-OHP) などの白金製剤のことのようです。また、「薬剤を確認するスクリーニング法」というのは、蛍光顕微鏡プラットフォームの自動スクリーニングのようです。
また、強心配糖体のNa+/K+-ATPase阻害作用が重要だとしています。このような強心配糖体のがん細胞死誘導作用は、免疫能力を欠損したマウスでは認められないそうです。さらに、化学療法薬と強心配糖体によって死んだがん細胞は、同種マウスに生きたがん細胞を移植する場合でも、ワクチンとしても有効だったそうです。
記事にもありますが、後ろ向き臨床解析によっても、化学療法中の強心配糖体であるジゴキシンの投与が、乳がん、大腸がん、頭頸部がん、肝細胞がんなどにおいて、全生存にプラスになることが明らかになりました。これは重要だと思います。
強心配糖体は、確かに何十年も以前から使われている薬物ですが、安全域が非常に狭く、治療域を超えると不整脈などの重篤な副作用が見られることが良く知られています。心疾患のないがん患者に使用するかどうかは難しい問題だと思います。
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