A novel retinoblastoma therapy from genomic and epigenetic analyses
以下は、論文要約の抜粋です。
網膜芽細胞腫(RB)は発達期の網膜に生じる進行性の小児がんで、RB1遺伝子の両アレル欠失によってひきおこされる。腫瘍は RB1 の不活性化後に急速に進行するが、そのメカニズムは不明である。
今回我々は、RBのゲノムは安定だが、複数の発がん経路がエピジェネティックに脱調節される可能性を示す。RB1の欠損と協調する変異を特定するため、RBの全ゲノム塩基配列解読を行ったところ、全体の突然変異率は非常に低く、既知のがん遺伝子で変異していたのはRB1だけだった。
次に、ゲノム安定性におけるRB1の役割を評価し、発がん経路が脱調節される非遺伝的なメカニズムについて考えた。例えば、がん原遺伝子SYKはRBで発現が増加しており、腫瘍細胞の生存に必要である。in vitroおよびin vivoでSYKを小分子の阻害薬によって阻害すると、RBの細胞死が誘導された。
このように、RBは、RB1遺伝子が欠損した結果、重要な発がん経路がエピジェネティックに脱調節された結果、急速に発生するのかもしれない。
網膜芽細胞腫(RB)の遺伝子解析から発見されたRB1遺伝子は、その欠失や変異が発がんに直結する「がん抑制遺伝子」として最も初期に同定された遺伝子の一つですが、その細胞がん化にいたるメカニズムは長い間不明でした。本論文は、そのメカニズムで有力だった1つの説を完全に否定するとともに、治療に結びつく新しい仮説を証明したものです。
否定された説は、RB1の変異がゲノムの不安定性をもたらし、その結果さまざまながん遺伝子やがん抑制遺伝子の変異を介してがん化するという説です。証明は、最近流行のゲノム解析です。4例のRBのがん細胞のゲノムをすべて解析したところ、共通に変異しているがん関連遺伝子はRB1だけだったという結果でした。
代わって有力になったのは、エピジェネティック説で、上記のようにSYKチロシンキナーゼの活性化が細胞のがん化に重要なようです。ただし、RB1の変異・欠失とSYKの活性化がどのようにつながるのかはまだ明らかにされていません。
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