BRAF阻害薬により治療された患者に発生した皮膚扁平上皮がんにおけるRAS 変異

RAS Mutations in Cutaneous Squamous-Cell Carcinomas in Patients Treated with BRAF Inhibitors

以下は、論文要約の抜粋です。


背景:皮膚扁平上皮がんとケラトアカントーマは、BRAF阻害薬による治療を受けた患者によくみられる腫瘍性病変である。

方法:BRAF阻害薬ベムラフェニブによる治療を受けた患者の腫瘍部位での発がん性変異(HRAS、KRAS、NRAS、CDKN2A、TP53)を同定するために分子解析を行った。高頻度に認められたRAS変異について、発がんを説明するいくつかの仮説を検証するために、BRAF阻害薬を用いた機能的研究を行った。

結果:21腫瘍サンプル中13個にRAS変異(HRAS変異が12)が認められた。14サンプルにおける検証では8個にRAS変異(HRAS変異が4)が認められた。即ち、標本の60%にRAS変異が認められ、最も頻度が高かったのはHRAS Q61Lだった。ベムラフェニブ投与によるHRAS Q61L変異細胞の増殖亢進は、MAPK経路シグナルとERKを介する転写に相関していた。HRAS Q61Lを介する発癌マウスモデルにおいて、ベムラフェニブアナログPLX4720は、発がんのイニシエーターやプロモーターとして働くのではなく、HRAS変異を有する病変の増殖を亢進させた。この増殖亢進は、MEK阻害薬の同時投与によって阻害された。

結論:RAS、特にHRAS変異は、ベムラフェニブ治療を受けた患者に発生する皮膚扁平上皮がんとケラトアカントーマに高頻度に認められる。ベムラフェニブがMAPKシグナルを逆説的に活性化した結果、これらの腫瘍病変の増殖が活性化したという分子メカニズムが考えられた。


ベムラフェニブ(vemurafenib)は、以前の記事でPLX4032/RO5185426などとして紹介した薬物で、メラノーマの特効薬として注目されています。

メラノーマの40から60%において、BRAFというマップキナーゼ・キナーゼ・キナーゼに変異があります。また、BRAF変異の90%は、600番目のアミノ酸であるバリン(V)がグルタミン酸(E)に変化しています(V600E変異とよぶ)。この変異によって、下流のマップ・キナーゼ経路が常に活性化された状態になり、細胞増殖が止まらなくなります。ベムラフェニブは、このBRAF活性を抑制します。ベムラフェニブをV600E BRAF変異を有する転移性メラノーマ患者に用いたところ、大部分の患者で腫瘍の完全あるいは部分的退縮が認められたそうです。

ところが、このベムラフェニブで皮膚がんや良性腫瘍のケラトアカントーマがよく発生することが最近わかったようです。本論文は、その発生メカニズムを明らかにしたものです。HRAS Q61Lなどの変異を持つ患者にベムラフェニブを投与すると、HRASとCRASがダイマーを作るなどのメカニズムによって、逆説的にマップキナーゼ経路が活性化されるというのが、そのメカニズムです。MEK阻害薬でマップキナーゼ経路の下流を止めると、腫瘍増殖が抑制されるのもこの仮説と一致しています。

ベムラフェニブがRAS変異をひき起こすのではなく、RAS変異をもつ細胞の増殖をベムラフェニブが亢進させるということです。そうだとすると、ベムラフェニブを投与するには標的病変でのV600E BRAF変異だけでなく、皮膚でのHRAS Q61LなどのRAS変異の有無を確認する必要がありそうです。

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