英国と世界がコロナ変異株に警戒する理由
イギリスで同定されたコロナの新しい変異株についての詳しい記事です。以下は、その抜粋です。
12月20日、英健康相Matt Hancockが、新コロナ変異株の流行は制御不能になり最高度の封鎖導入は避けられず、大変に深刻な状況にあると述べ、今回の流行の克服と封鎖の出口はワクチン接種を広めることにあるとし(広く接種がいきわたるまでの)今後数ヶ月間封鎖が続く可能性を示唆した。
全英共同研究チームによるコロナウイルスの変異モニタリング
英国では、感染症、公衆衛生・疫学・統計、ゲノム配列を決定するためのシークエンス技術などの全ての分野の科学者が参加した全英的共同研究チームCOG-UKが、パンデミック初期の4月に設置された。それ以来、COG-UKは日々変異株のモニタリングと性質の検証をしてきた。
COG-UKは30億円の予算で運営され、コロナPCR検査で陽性に出た検体を使い膨大な数のコロナ検体のゲノム配列を決定している。またこれに関連して、病院で治療をうけたコロナ患者における様々な変異株の動態や、変異株の分類、変異株の生化学的・免疫学的解析まで行っている。
COG-UK によれば、これまでに14万の検体のゲノム配列を決定し、S(スパイク)タンパクだけでも合計4000種類の変異が確認されたという。これらの変異株のなかで、今回問題の変異株B1.1.7(現在はVOC202012/01とよばれる)は特に憂慮されていたものである。
英国型変異株の特徴
変異株B1.1.7は際立って多くの変異をためこみ(17箇所のアミノ酸変化を伴う株特異的な変異)、8つの変異はウイルスが人の細胞に感染する際につかうSタンパクにある。このなかで筆頭の変異N501Yは、英国の変異株B.1.1.7だけではなく、南アフリカで伝染効率が高いと問題とされている変異株501Y.V2にもみられる。ただし、この2つの変異株は、N501Y以外には似ているところは少なく、独立に生じたと思われる。
N501Yの変異をもつとヒトの受容体タンパクACE2に結合しやすくなるとみられている。また、N501Yは、マウスに対する病原性を強め、マウスに重症肺炎を起こすようになることがわかっている。しかし、人間でコロナ感染の病像を変えるか、重症度を変えるかどうかはわかっていない。
イングランド公衆衛生局による流行モニタリング
変異株B.1.1.7の流行地域では、感染者数の急増にともなって、入院患者・重症患者が急増し、かつてない最悪のレベルにまで医療が逼迫していることは重要である。少なくとも、変異株B.1.1.7は弱毒化していない。
イングランドは10月までに北部イングランドを中心に著しかった流行増加を制御するため11月5日―12月2日のあいだにロックダウンされた。ロックダウン後は流行は順調に制御され、とくに流行増加が危機的であった北部イングランド(マンチェスター・リバプールなど)で効果は著明であり、流行が予測通り制御されていたことが確認されている。
ところが不思議なことにイングランドのケント州とその周辺では11月のロックダウンにもかかわらず流行の抑制がうまくいっていなかった。そして12月のロックダウン解除後1週間もたたない12月8日までにケント州で流行の明確な増加がみられた。
そこでイングランド公衆衛生局は増加の原因を詳細に分析。これにより、ケント州から採取されゲノム配列が決定した915検体のうち828検体は変異株B1.1.7によるものであることが判明した。
コロナPCR検査センターによる変異株の検出
このように、変異株B1.1.7を憂慮すべき一つの理由は急速な流行の時間動態にある。これに統計的な確信をもつためには、相当量のデーターが必要である。英国は140万人の感染者をPCRで確認し、そのうち14万人分の検体のウイルスゲノム全配列を決定している。
英国ではコロナ流行制御のため大きなPCR検査センターを複数設立・運営している。幸運なことに、検査センターが使用していたPCRは、たまたま変異株をみわけられるものだった。この幸運のおかげで、英国では、時系列をさかのぼって、いつ変異株B1.1.7が出現・増加したかの動態を、一般向けPCR検査結果とCOG-UKによる高度なシークエンス検査結果の2つで調べることができた。
その結果が上の図である。変異株B1.1.7は、9月後半より増加、11月に急激な増加をおこし、12月以降、流行のスピードを増して、既存のウイルスを凌駕し、コロナ流行の中身を急速に置きかえている。これらから、変異株B1.1.7の伝染効率は6割程度高くなっていることが示唆されている。
急激な流行と変異株の地域的局在
現在世界で主流のコロナウイルスはD614Gという変異株である。これは当初の株にはなかった変異D614Gをもち、2月ー4月に急速に世界中で圧倒的多数となった。D614G変異が伝染効率を高くしたと考えられている。今回の英国型変異株B1.1.7は変異を多く持ち、変異株流行と流行拡大の地域が重なり、6ー7割伝染効率が高いと推定されたため英政府は迅速に動く決断をしたとみられる。
注意すべきなのは、マンチェスターからロンドンにいたるまで、封鎖による生活制限は同様であり、とりたてて行動に違いがあるとは考えにくい。それなのに、イングランド南東部でのみ急激にコロナの感染者数が、新規感染が10万人あたり週に1000人以上という地域が続出、これまでにない数にまで増加し、そこから周囲に染み出すように流行が広がっている。そして、これらの流行爆発地域で圧倒的多数なのが変異型B1.1.7である。
繰り返すが、11月まで問題であったのはイングランド北部の流行拡大で、イングランド南東部はパンデミック始まり以来とりたてて特に他の地域にくらべて激しい流行はなかった。イングランド公衆衛生局は変異株B1.1.7が1108検体から確認されたとして、VOC202012/01と改名し、警戒して観察・調査を進めている。
上の記事にも書かれているように、現在世界で流行しているコロナウイルスの株は、当初武漢で流行した株とは異なり、D614Gという614番目のアミノ酸がアスパラギン酸からグリシンに変化した株です。この株が流行っていることで、世界での第2波や第3波の流行がくい止めにくくなっていると推測されます。日本でも、第1波よりも第2波や第3波の流行が大きくなっているのは、国民の「コロナ疲れ」や「Go To」も原因かもしれませんが、当初の株よりも感染率が高いD614G変異の影響もあると思います。
D614G変異は、614番目のアスパラギン酸をコードするRNAコドンのたった1つの塩基変化(A→G)で生じます。同様に、新しい変異株のN501Yは501番目のアミノ酸がアスパラギンからチロシンに変化した株で、これも1つの塩基変化(A→U)で生じます。以前の記事で書いたように、このウイルスは非常に頻繁に変異をすることが知られていて、2週間に1つの変異をすると言われていますので、南アフリカ以外の地域(日本を含む)でも同様のN501Y変異が生じている可能性があります。
新しいN501Y変異を持つ株は、イングランド南東部でのように世界中で現在流行中の株を駆逐して流行の主流になり、今よりもさらに感染者や重傷者・死者が増えることが予想されます。この予想に基づいて、英国政府は、流行は制御不能だとして最高度の封鎖を導入し、今回の流行の克服と封鎖の出口はワクチン接種を広めることにあるとし(広く接種がいきわたるまでの)今後数ヶ月間封鎖が続く可能性を示唆したと思います。
日本では、新しい変異株の国内への侵入をくい止めようとする水際対策を強化するだけのようですが、上記のように日本国内でもN501Y変異が発生する可能性があり、水際対策が失敗する可能性もあります。実際、アメリカでは渡航歴のない患者から新しいN501Y変異を持つウイルスが検出されています(記事をみる)。ですので、水際対策だけではなく、この変異ウイルスの国内での流行に対する対策を立てておく必要があります。英国のやり方をみると、それはワクチン接種を急ぐことだと思います。「国産」にこだわっている時ではありません。
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