以下は、記事の抜粋です。
腫瘍に含まれる特定のタンパク質の量を調べることで、がんの転移や再発の可能性を高い精度で予測する方法を発見したとの論文が、2月1日のJournal of Clinical Investigation誌に発表された。
現在のステージ分類より正確な診断ができ、広範囲への応用が実現すれば、転移を防ぐための積極的な治療をいつ実施するかの見極めにも役立てられそうだという。
米国NIHと香港大の研究者らは、カルボキシペプチダーゼ E(CPE)の新たな変異体CPE-ΔNを発見。これが、さまざまながんにおける転移性腫瘍細胞に多く含まれていることを見出した。該当するがんは、肝臓がん、乳がん、大腸がん、副腎がん、頸部がん、脳腫瘍など幅広い。
現在、がんの進行度は、ステージ1(早期がん)、ステージ2(軽い進行がん)、ステージ3(かなり進んだ進行がん)、ステージ4(末期がん)に分類されている。研究チームは、ステージ1~4の肝臓がん患者99人を8年間追跡調査。腫瘍細胞と周囲の組織を摘出し、CPE delta-Nの発現量を調べた。
その結果、腫瘍に含まれるCPE delta-N mRNA量が、周囲の細胞に含まれる量の2倍以上だった人では、2年以内に再発または転移する確率が極めて高かった。逆に2倍以下の人では、再発の確率はがくりと下がった。
また、がんの転移・再発予測については90%以上の確率で的中し、再発しないとの予測でも76%が的中した。ステージ2の患者で、腫瘍摘出後に転移の可能性はなく治療の必要はないとされた人に再発が予測されたケースもいくつかあったという。
元論文のタイトルは、”An N-terminal truncated carboxypeptidase E splice isoform induces tumor growth and is a biomarker for predicting future metastasis in human cancers”です(論文をみる)。
CPEはコバルトで活性化されるメタロ・エクソ・ペプチダーゼで主に内分泌系の細胞に存在しており、ペプチドホルモンの成熟プロセスに働くことがわかっていました。
また、野生型とは異なるCPEが肺神経内分泌腫瘍やインスリノーマなどで発現していることや、マイクロアレイ解析で、結腸、腎、子宮などの非内分泌系腫瘍でCPE mRMAレベルの上昇が知られていましたが、発がんとの詳しい関係は報告されていませんでした。
本論文では、CPE-ΔNがヒトの転移性結腸がん、乳がんや培養肝細胞がん(HCC)細胞などで高発現していること、HCC細胞ではCPE-ΔNが細胞質から核へトランスロケートしていること、そこでhistone deacetylase (HDAC) 1/2を介してNedd9の発現を誘導すること、高発現したNedd9が細胞増殖と転移を引きおこすこと、HCC患者におけるCPE-ΔN mRNAの定量は肝内転移を高感度かつ正確に予測できること、褐色細胞腫などの他のがんでもCPE-ΔN mRNA量が将来における転移や再発を予言できること、などなどが示されました。
これらの結果から、研究者らは、CPE-ΔNが肝がんや褐色細胞腫の転移や再発の良いマーカーになると主張しています。
野生型のCPEのN末にはシグナルペプチドがあるので、ER内に運ばれ、ゴルジ、分泌顆粒へと輸送されてホルモンの前駆体を成熟させるように働きますが、CPE-ΔNではそのシグナルペプチドがないので、ER内に運ばれずに細胞質に留まり、次に核へ移行してNedd9遺伝子発現を誘導する、という野生型とはまったく異なる働きをするのがおもしろいと思いました。
論文ではCPE-ΔNが良いマーカーであることを強調していますが、細胞増殖や転移のメカニズムは、Nedd9を介しており、CPE-ΔNの増加はNedd9の増加と平行なので、既に細胞増殖や転移と関連がわかっているNedd9はマーカーとして使えないのか?などと思いました。
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