ニコチン摂取を抑制する脳の部分を特定、「禁煙薬」につながるか?米研究
以下は、記事の抜粋です。元論文の内容に従って修正しました。
ニコチンに対する渇望感を引き起こす脳の部分を特定したとの研究が、1月30日のNature誌に掲載された。発表したのは、Scripps研究所のPaul Kenny氏らの研究チーム。マウスなどの実験で、これまでニコチン依存症に関係があるとされてきたニコチン受容体のα5サブユニットをコードするCHRNA5遺伝子の機能を調べた。
研究チームは、CHRNA5遺伝子が正常であれば、ニコチンをほんの少量摂取しただけで「摂取を中止せよ」との信号を脳に伝達する機能があることを突き止めた。さらにニコチンの量を増やすと、「おいしくない食べ物や飲み物」を摂取したときと同様の反発作用のようなものがはたらくという。しかし、ニコチン受容体のα5サブユニットをノックアウトしたマウスでは、この「中止せよ」との信号が発信されることがなく、その結果、マウスたちはニコチンを欲しがり続けた。
研究チームは同様の状況が人間でも起こりうると考えている。米国人のうちおよそ30~35%の人びとは、ニコチンをいつまでも求め続けるタイプのCHRNA5遺伝子を持っているという。Kenny氏は「この結果は、特定の遺伝的変異をもった人びとが、たばこへの依存を発達させやすいことを説明するものだ」と指摘した。
元論文のタイトルは、”Habenular α5 nicotinic receptor subunit signalling controls nicotine intake”です(論文をみる)。
神経細胞にあるニコチン性アセチルコリン受容体のα5サブユニットをコードするCHRNA5遺伝子に変異があると、タバコ依存症になり易いことは知られていましたが、そのメカニズムは不明でした。
研究者らは、α5サブユニットのKOマウスではニコチン摂取量が著しく増加し、KOマウスの内側手綱核(medial habenula, MHb)でα5サブユニットを再発現すると元に戻ることを実験的に示しました。ノックアウトの代わりにノックダウンしても同じ効果が得られました。
MHbからの神経はほとんどすべて脚間核(interpeduncular nucleus, IPN)に投射しています。また、α5サブユニットはこの経路に高度に発現しています。研究者らは、α5KOマウスにおいてIPN神経細胞の活性の低下を観察しました。さらに、IPNシグナルを破壊するとラットのニコチン摂取が増加することを示しました。
以上の結果から、ニコチンは、α5サブユニットを含むニコチン性アセチルコリン受容体を刺激することで、手綱核-脚間核経路(habenulo-interpeduncular pathway) を介するニコチン摂取抑制シグナルを惹起すると考えられます。研究者らはこの経路を特異的に刺激する薬物をつくれば、新しいメカニズムの禁煙薬ができると主張していますが、簡単にはできないと思います。
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