PGC-1α:パーキンソン病の初期治療介入標的としての可能性

PGC-1α, A Potential Therapeutic Target for Early Intervention in Parkinson’s Disease

以下は、論文要約の抜粋です。


世界で約500万人がパーキンソン病に罹っているといわれているが、発病の分子メカニズムは明らかではない。

本研究では、遺伝子セット(同じ生物学的パスウェイやプロセスに働くタンパク質をコードする遺伝子グループ)の発現レベルをパーキンソン病患者や正常人のサンプルでゲノムワイドに解析した。

その結果、これまでパーキンソン病との関連が知られていない10個の遺伝子セットが同定された。これらの遺伝子セットは、ミトコンドリアの電子伝達、グルコース利用、グルコース感知における障害を特定し、これらの障害は病気の初期段階から認められることが明らかになった。

peroxisome proliferator–activated receptor γ coactivator-1α (PGC-1α) に反応して発現される細胞のバイオエネルギーを制御する遺伝子群は、パーキンソン病患者で発現が低い。PGC-1αを活性化すると、ミトコンドリア呼吸鎖サブユニットの発現を増加させ、変異α-シヌクレイン(synuclein)や殺虫薬ロテノン(rotenone)などで惹起されるドーパミン神経細胞死をブロックした。

このようなシステムズバイオロジー的な解析によって、パーキンソン病の初期治療介入のための潜在的標的分子としてPGC-1αが同定された。


1980年代、ヘロインを快楽目的で使用したカリフォルニアのグループにパーキンソン病に良く似た症状が多発し、その原因がヘロインにコンタミしたMPTPという化学物質を誤って摂取したためであったことは良く知られています。

後年、MPTPはミトコンドリアにおける電子伝達系を障害することがわかりました。広く用いられている農薬であるロテノンもラットにパーキンソン症状をおこし、ミトコンドリアの電子伝達系を障害することがわかっています。

さらに、ミトコンドリア機能を制御する遺伝子に変異がおこるとパーキンソン病になる事実も明らかになりました。他の神経変性疾患、例えばハンチントン病でもミトコンドリア異常が報告されています。このように、パーキンソン病の神経細胞変性にミトコンドリア障害が関連するという証拠が蓄積してきました。

これを受けて、壊れたミトコンドリアを修復すればパーキンソン病が治療できるのではないかという発想でミトコンドリアを標的としたパーキンソン病治療薬開発が進められているそうです。

本研究では、非常に多くの症例をあつめて、100万以上のデータポイントでパーキンソン病患者と健常者の脳における発現パターンを比較し、ミトコンドリア機能とエネルギー産生に関連する10遺伝子セットを発見しました。

そして、発現が低下したこれらの遺伝子の多くがPGC-1αで制御されることを明らかにしました。さらに、PGC-1αの発現を増やすことで、MTPTやロテノンのラット培養神経細胞に対する毒性を減らすことができました。

ロシグリタゾン(rosiglitazone)やピオグリタゾン(pioglitazone、商品名:アクトス)などの糖尿病治療薬は、PGC-1αを活性化することが知られています。本研究は、これらの薬がパーキンソン病に対して有効である可能性を示唆しています。

実際、ロシグリタゾンに比べて心血管リスクが低いとされるピオグリタゾンのパーキンソン病に対する臨床試験は、既に当局から認可されたそうです。ミトコンドリア機能などの低下がパーキンソン病の原因ではなく、結果だという議論はあるそうですが、PGC-1αの活性化で病気が治るのであれば、そんなことはどうでも良いことかもしれません。

参考記事
Damaged cell powerhouses linked to Parkinson’s

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