CCR5Δ32/Δ32幹細胞移植によるエイズウイルス(HIV)感染の治癒

骨髄移植でHIVが消滅 治療に新たな手掛かり

以下は、記事の抜粋です。


白血病の治療のため、骨髄移植を受けたところ、感染していたエイズウイルス(HIV)が体内から消えたという珍しい患者の症例が、米国の医学誌に報告された。12月15日米メディアが報じた。

提供された骨髄の遺伝子がHIVに耐性を持っていたことから起きたらしい。専門家らは「エイズ治療法として使うのは難しいが、新たな治療法や薬の開発の手掛かりになる」と指摘している。

患者は40代の男性で、2007年にドイツの病院で白血病治療のための骨髄移植を受けた。移植から3年以上過ぎた時点で、白血病が治ったばかりか、以前から感染していたHIVも検出されなくなったという。


元論文のタイトルは、”Evidence for the cure of HIV infection by CCR5Δ32/Δ32 stem cell transplantation”です(論文をみる)。

患者は、HIVに感染して10年以上になり、2006年に急性骨髄性白血病を発症し、化学療法を受けたが、効果はなかったそうです。上の記事では、「エイズ治療法として使うのは難しい」と書かれていますが、患者にHIV感染があったので、HIV耐性を持つドナーの幹細胞を使った骨髄移植を07年2月に実施したようです。移植後は、抗レトロウイルス治療も行っていませんでした。

HIVウイルスは、CCR5あるいはCCR4と呼ばれるケモカイン受容体を介して細胞内に進入し感染します。CR5Δ32変異とは、CCR5受容体をコードする遺伝子に32塩基の欠失のある変異で、白人の5-14%に認められるそうです。この変異をヘテロに持つだけでHIV感染の進行は遅延し、ホモに持つ場合は感染に強い抵抗性を示します。

移植に用いられたドナーのCCR5Δ32/Δ32幹細胞は、この変異をホモに持っていたので、HIVに対する抵抗性が期待されたわけです。移植3年後、ホストの免疫細胞は抹消でもほぼ完全に消滅し、脳のミクログリア細胞やマクロファージもドナー由来のCCR5Δ32/Δ32に置き換わっていました。

エイズ治療にCCR5Δ32/Δ32幹細胞移植が一般に用いられるようになるかは別として、CCR5受容体のエイズ治療標的としての重要性をあらためて認識させる報告だと思います。

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