Reducing excessive GABA-mediated tonic inhibition promotes functional recovery after stroke
以下は、論文要約の抜粋です。
脳卒中は身体障害の主な原因だが、回復を促進する薬物治療はまだない。脳卒中により傷害された部位に隣接する”the peri-infarct zone”では、神経可塑性が高まっており、知覚運動機能を傷害領域から再配置することが可能なので、このzoneはリハビリテーションに必須である。
したがって、この可塑性を制約している神経組織の特性を解明することは、新しい治療法の開発に重要である。今回我々は、脳卒中後のマウスのthe peri-infarct zoneにおいて、持続的な神経活動の抑制が増強していることを示す。
この増強した持続的神経抑制は、シナプス外GABAA受容体を介しており、GABAトランスポーター(GAT-3/GAT-4)の障害により生じる。
高まった抑制を是正するために、脳卒中の一定時間後に、α5-サブユニットを含むシナプス外GABAA受容体に特異的なベンゾジアゼピン系逆作動薬(受容体に結合し構成的活性を減弱させる物質)を生体に投与した。
この処置によって、運動機能が早期に回復しそれが持続した。持続的抑制に必要なα5あるいはδ-サブユニットを含むGABAA受容体の数を遺伝学的操作によって減少させても、脳卒中後の回復を促進したので、シナプス外GABAA受容体機能の抑制が脳卒中治療に効果がある可能性が示された。
本研究は、新しい薬物治療標的を同定し、脳卒中やその他の脳損傷後の回復を促進させるための新規治療戦略の理論的基盤を提供するものである。
この論文によると、シナプス外に放出されたGABAは、GABAトランスポーター(GAT-3/GAT-4)によって、アストロサイトなどのグリア細胞に取り込まれます。虚血によってグリア細胞が傷害されると、GAT-3/GAT-4が減少し、シナプス外のGABA濃度が上昇します。
このようにしてシナプス外で増加したGABAが、α5あるいはδ-サブユニットを含むGABAA受容体を介して、持続的な神経活動の抑制を増強し、神経組織の可塑性を障害することが脳卒中からの回復を妨げているので、これらのGABAA受容体の働きを阻害すれば、回復を促進できるというのが論文の主張です。
シナプスの外で働くGABAA受容体があることや、このような受容体を介して神経細胞の可塑性が制御されていることは、この論文を読んで初めて知りました。しかし、臨床応用に至るまでには、多くの問題をクリアする必要があると思われます。
まず、GABAA受容体を介する作用の中には、神経組織を保護する作用もあります。特に、脳卒中の直後にはこの作用が重要なようで、この論文でも直後に受容体を阻害してしまうと、虚血によって生じる梗塞のサイズが大きくなることが報告されています。つまり、受容体阻害のタイミングが難しいということです。
また、NEWS & VIEWSでも指摘されているように、GABAA受容体阻害薬を投与すると動物の意識レベルが上がり覚醒状態になることで、回復が促進されたようにみえる可能性や阻害薬投与が痙攣を誘発する可能性もあります。
このように、ベンゾジアゼピン系逆作動薬やGABAA受容体阻害薬がヒトにおいても脳卒中からの回復を促進するかどうかは、まだまだわからないというのが正直な感想です。しかし、神経組織の回復力が弱いために、一度組織が障害されてしまうとリハビリ治療しかないと思われている今の脳卒中治療に、可塑性を高めて回復を促進する薬物治療の可能性をもたらした本研究の意義は大きいと思います。
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