Alleviating Cancer Drug Toxicity by Inhibiting a Bacterial Enzyme
以下は、論文要約の抜粋です。
大腸がんの化学療法薬として広く用いられているCPT-11の一番厄介な副作用は、重篤な下痢である。この下痢は、腸内細菌のβグルクロニダーゼが一度不活化された薬物を腸内でもう一度活性化することにより生じる。
研究者らは、ヒトの健康に必須の共生細菌を殺さずにこれらの酵素を阻害する用法を探した。その結果、強力なβグルクロニダーゼ阻害薬を複数同定した。これらの薬物は哺乳動物のβグルクロニダーゼにはまったく影響がなかった。
これらの阻害薬は、好気性および嫌気性細菌のβグルクロニダーゼを非常に効果的に阻害するけれども、細菌を殺したり、哺乳動物細胞を障害したりしない。
さらに、これらの薬物をマウスに経口投与したところ、CPT-11による下痢を強く抑制した。これらの結果は、CPT-11の化学療法効果を増強するために、共生細菌の望ましくない酵素活性を阻害する薬物がデザインできることを示している。
カンプトテシンは、DNAの転写や複製においてDNA鎖の立体配置(トポロジー)の変換を行うトポイソメラーゼI(トポI)を阻害します。カンプトテシンは、トポI・DNA複合体と結合して3者複合体を形成します。 これがDNAの再結合反応を妨げ、その結果生じるDNAの損傷ががん細胞のアポトーシスを引き起こすとされています。
理論的には、すべての細胞が感受性を示しますが、がん細胞のように分裂が早い細胞がより高い感受性を示します。イリノテカン(CPT-11、商品名:トポテシン)は、カンプトテシンの誘導体で可溶性やバイオアベイラビリティーを改善した薬物です。CPT-11は、大腸がんでは最もよく使用される化学療法薬の一つで、肺がんなどにも使用されていますが、その副作用である激しい下痢のために使用が制限されることが問題でした。
CPT-11はプロドラッグで、生体内のカルボキシエステラーゼによって分解され、トポイソメラーゼ阻害活性を持つSN-38という物質になります。肝臓でグルクロン酸抱合を受けて不活化され、胆汁から腸管内に排泄されますが、腸内細菌によって脱抱合され、再びSN-38なります。腸管内で生じたSN-38は増殖の盛んな腸管上皮細胞を障害します。これが下痢の原因です(下図参照)。
これまで、ヒトのβグルクロニダーゼの構造はわかっていましたが、細菌の酵素の構造は不明でした。研究者らは、大腸菌のβグルクロニダーゼの結晶解析を行い、ヒトの酵素にはない”bacterial loop”という構造があり、阻害薬はこの構造に依存して作用することを明らかにしました。
がんの化学療法薬には、それぞれ特徴的な副作用があることがよく知られています。イリノテカンの下痢以外にも、シクロフォスファミドには出血性膀胱炎、アドリアマイシンには心毒性、シスプラチンには嘔吐という副作用があります。
シスプラチンの嘔吐には、グラニセトロンやオンダンセトロンなどの5-HT3受容体遮断薬が開発され、患者の負担が以前よりもかなり軽減されました。イリノテカンによる下痢についても、軽減する薬物の可能性が示されたことは、がん治療にとって明るい話題です。
イリノテカンによる下痢のメカニズム(論文をみる)
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