苦味受容体が気管支平滑筋に存在し、刺激すると気管支が拡張―喘息治療の新しい可能性

Taste buds in lungs discovery could ease asthma

以下は、記事の抜粋です。


舌ではなく肺に「味覚受容体」があること発見され、喘息治療に新しい可能性が示唆された。

マウスの研究で苦味を感じる受容体を刺激すると気道が開いて呼吸を容易にすることがわかった。このマリーランド大グループの研究は、他の肺疾患の治療にも応用できるかもしれない。

最初、苦味の受容体が気道に存在していることが発見された時には、誰もがそれを刺激すると気道は収縮し、咳をひきおこすと思った。しかし、真実はその逆だった。

マウスの気道組織を苦味物質で処理してからアレルゲンに曝すと、防御的な反応が認められた。すなわち、これまで知られているどんな喘息治療薬や慢性閉塞性肺疾患( chronic obstructive pulmonary disease, COPD)治療薬よりも効果的に気道を開いたのだ。

喘息や他の肺疾患になると気道平滑筋が収縮して気道を狭くする。サルブタモールのような薬物は平滑筋の弛緩を助けて気道を開き、正常な呼吸を回復する。

研究グループによると、キニンや後味が苦いサッカリンのようなものでも吸入薬にすることで現行の治療を増強したり、場合によってはとって代わる可能性があるという。ただし、喘息発作時に苦いものを食べるだけではダメだそうだ。


元論文のタイトルは、”Bitter taste receptors on airway smooth muscle bronchodilate by localized calcium signaling and reverse obstruction”です(論文をみる)。

研究者らは、単離したヒト気道平滑筋細胞に、苦味を感じる味覚受容体が発現していることをみつけました。これらの受容体は、GTP結合タンパク質と共役しているタイプで、複数の苦味受容体が気道平滑筋細胞に発現していました。実験に最も良く使われた苦味受容体リガンドはサッカリン、クロロキン、キニンなどです。これらの薬物を細胞に投与すると平滑筋細胞内カルシウム濃度が上昇しました。

最初研究者らは、これらの受容体を刺激すると平滑筋の収縮がおこると思っていましたが、実際にはマウスでもヒトでも弛緩がおこりました。しかも、喘息の治療に用いられるβ受容体刺激薬よりも大きな弛緩がおこり、苦味受容体刺激による弛緩とβ受容体刺激薬による弛緩は相加的でした。

苦味受容体刺激は、細胞内ストアから細胞膜周辺に限局した細胞内Ca2+濃度の上昇を引きおこし、その結果、細胞膜のCa2+によって活性化される大伝導カリウムチャネルを開き、気道平滑筋細胞膜の過分極をおこすことがわかりました。この過分極が平滑筋の弛緩を引きおこすと考えられています。

さらに、卵白アルブミンで感作したマウスの喘息モデルでも、エアロゾル化したキニンは、喘息治療薬のAlbuterolよりも強力な治療効果を示しました。

副作用については未知数で、喘息治療効果は今のところマウスモデルでしか確認されていません。しかし、ヒトの気道平滑筋でも同様の弛緩反応が確認できていることと苦味物質による平滑筋弛緩作用がβ受容体刺激薬による作用よりも強力で2つの作用が相加的であることは、苦味受容体が喘息治療薬の新しい治療標的として有望であることを強く示唆しています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました