健やかわかやま:がん治療に高濃度ビタミンC 吉川博之院長に聞く
以下は、記事の抜粋です。
がんによる死亡者数は約114万人で、死因のトップになっている。最新のがん治療法として注目される高濃度ビタミンC点滴療法について、海南市幡川の吉川内科循環器科の吉川博之院長(49)に聞いた。
◇がん細胞だけを攻撃 ■週1~2回の点滴
高濃度ビタミンC点滴療法は自費診療で行うがんの治療法です。米国の▽国立衛生研究所(NIH)▽国立がん研究所(NCI)▽食品医薬品局(FDA)--の科学者らが05年、米国科学アカデミー紀要でがんに対する有用性を発表し、以後も米国で研究が続けられています。
1回の点滴量は50~100グラムで、週1~2回行います。作用機序は、血液中のビタミンCが高濃度になると、体内の鉄などへの抗酸化作用で過酸化水素水が発生します。過酸化水素水は正常な細胞には影響せず、がん細胞だけを攻撃して強い傷害を与えます。正常の細胞にはカタラーゼなど過酸化水素を中和する酵素があるため無害なのです。ただし、一部の遺伝的な酵素欠損の方は溶血性貧血を起こすので禁忌です。
◇放射線療法と併用も ■副作用による生活の質の低下も改善
ビタミンCは強力な抗酸化作用があることで知られていますが、高濃度になると抗がん作用があるのです。さらに、正常細胞には毒性がない理想的な抗がん剤と言えます。
米国やカナダでは多くの施設でがん患者さんは高濃度ビタミンC点滴療法を受けています。高濃度ビタミンC点滴療法は化学療法や放射線療法と併用することもできます。進行したがんにおいても、痛みや倦怠感、食欲不振など、化学療法や放射線療法の副作用による生活の質の低下を改善します。
また、米国などで、がん手術後の再発防止や新たな補助療法としても研究が進められています。既存の化学療法剤に比べて薬の値段が安いのも特徴で、研究が進んで保険診療に組み入れられれば、経済的負担も少なく、利点は多いと思います。
上の記事で、「米国の▽国立衛生研究所(NIH)—-05年、米国科学アカデミー紀要でがんに対する有用性を発表」というのは、”Pharmacologic ascorbic acid concentrations selectively kill cancer cells: Action as a pro-drug to deliver hydrogen peroxide to tissues“のことだと思われますが、論文に記載されている実験は培養細胞にビタミンC(ascorbic acid)を添加して効果を調べた論文で、高濃度ビタミンC点滴療法の効果を調べた論文ではありません。
「以後も米国で研究が続けられています。」というのは正しいですが、高濃度ビタミンC点滴療法ががんに有効であるというランダム化(無作為化)比較試験の結果はありません。
「高濃度ビタミンC点滴療法は化学療法や放射線療法と併用することもできます。」と書かれていますが、”Vitamin C Antagonizes the Cytotoxic Effects of Antineoplastic Drugs“にあるように、ビタミンCは試されたすべての抗腫瘍薬(doxorubicin, cisplatin, vincristine, methotrexate, and imatinib)の効果を減弱させました。AFPでも紹介されています(記事をみる)。
厚生労働省がん研究助成金「がんの代替療法の科学的検証と臨床応用に関する研究」班がまとめた「がんの補完代替医療ガイドブック」でも、「高容量ビタミンC」に対して、「全ての患者が避けたほうが賢明」というコメントがついています。
最新のPLoS ONEに以下のような論文があります。
この中で、ビタミンCの静脈内投与が非常に多くの代替医療現場で行われていることが報告されており、想定される副作用や、化学療法への影響なども議論されていますが、効果があるとは書かれていません。医師は多くの患者がこのような代替療法を受けている可能性を考えて治療にあたるべきであると結論しています。
「ビタミンCが風邪やがんに効く」という説を唱えたのは、ノーベル賞を2度受賞したライナス・ポーリングです。非常に偉い人の言うことでも、無条件に信じたらダメな例の一つだと思います。
医師が代替医療を行うのはしかたがないとしても、それを「最新のがん治療法として注目される高濃度ビタミンC点滴療法」として、毎日新聞が報道するのには驚きました。
インパクトのあるコピーです。
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