新抗血栓薬チカグレロル(ブリリンタ)は、プロドラッグではなく、可逆的にP2Y12受容体を遮断する

英アストラゼネカの新抗血栓薬、米諮問委が承認相当の判断

以下は、記事の抜粋です。


アストラゼネカの新抗血栓薬ブリリンタ(Brilinta、一般名:Ticagrelor)について、米食品医薬品局(FDA)の専門家による諮問委員会は7月28日、FDAに承認を勧告することを賛成7、反対1の賛成多数で決定した。

アナリストは、ブリリンタの売上高は年10億ドルを超えると予想している。アストラゼネカの米預託証券は、米通常取引終盤に大幅に上昇し、3.2%高で終了した。

ブリリンタをめぐっては、北米での臨床試験の結果が思わしくなかったことから、FDA承認の可能性が疑問視されていた。諮問委のメンバーは、北米の臨床試験の結果については十分説明できないながらも、他の地域の臨床試験で死亡率の低下や発作の抑制で大きな効果がみられたことを踏まえて米国で使用しても良いとの判断に至った。

メータ・パートナーズのアナリスト、ビレン・メータ氏は「ブリリンタは主力薬品になる可能性を持っている」と指摘した。FDAは承認の可否を9月16日まで決定することになる。諮問委の勧告に従うのが慣例となっている。


Ticagrelor(チカグレロル)は、アデノシン2リン酸(ADP)のP2Y12受容体を選択的に阻害します。この作用は、先行のクロピドクレル(商品名:プラビックス)と同じです。

関連記事1で説明したように、心筋梗塞や脳梗塞などの病気では、血管の中で血栓ができることが引き金になります。血栓形成には、血小板が周囲からの刺激に反応して、凝集し、その中身を放出することが重要です。

血小板凝集によって放出されるADPは、それ自身が血小板の細胞膜にあるP2Y12受容体を介して凝集をひき起こします。チカグレロルやクロピドクレルは、ADPのP2Y12受容体への結合を阻害し、血小板の凝集と血栓の形成を抑制すると考えられています。

クロピドクレルは、多くの大規模臨床試験によって、その有用性と安全性が確認されており、世界的にも広く使われています。2008年の売り上げは9291百万ドル(約8100億円)で、 世界の大型医薬品売上ランキングでは、アトルバスタチン(商品名:リピトール)に次いで第2位です。

しかし、クロピドクレルにもいくつかの問題があります。1つは、プロドラッグのため薬効が得られるまでに最低でも2時間かかり、緊急PCI(percutaneous coronary intervention)時に不利であることです。2つめは、不可逆的な受容体阻害のため、バイパス術などの手術が緊急に必要な場合、出血の危険性が高いことです。

さらに、クロピドクレルは、上記のようにプロドラッグで、活性を持つためにはCYP2C19によって代謝される必要があるため、遺伝的にCYP2C19活性の低いヒト(日本人では5人中1人)では抗血小板効果が得られにくいとされています(関連記事2)。

一方、チカグレロルは、プロドラッグではないのでCYPの遺伝型による問題はなく、投与した薬物がそのままの形で受容体に作用するため、投与後30分以内で抗血小板効果が得られるそうです。また、受容体への結合が可逆的なためwashoutが速く、中断後2-3日で血小板機能が回復するそうです。

関連記事3によると、急性冠症候群を発症した患者において、チカグレロルによる治療は、クロピドグレルと比較して、血管系の原因による死亡、心筋梗塞、脳卒中の発生率を有意に低下させたそうです。

クロピドクレルの売り上げ(年92.9億ドル)を考えると、チカグレロルの売り上げが年10億ドルを超えるとのアナリストの予想もそれほど誤っていないように思われます。

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