PPARγに作用する抗糖尿病薬(ロシグリタゾン、ピオグリタゾンなど)の新しい作用メカニズム

Anti-diabetic drugs inhibit obesity-linked phosphorylation of PPARγ by Cdk5
(抗糖尿病薬は、肥満に関連するCdk5によるPPARγのリン酸化を阻害する)

ロシグリタゾン(商品名:アバンディア)やピオグリタゾン(商品名:アクトス)などのチアゾリンジオン系抗糖尿病薬は、核受容体PPARγを活性化して作用すると考えられていましたが、新しい作用メカニズムが提案されています。以下は、論文要約の抜粋です。


マウスに高脂肪食を食べさせると脂肪組織のCdk5 (cyclin-dependent kinase 5) を活性化する。その結果、脂肪代謝を制御する転写因子PPARγ(peroxisome proliferator-activated receptorγ)の273番目のセリン残基がリン酸化される。

PPARγは、脂肪生合成と脂肪細胞における遺伝子発現制御において中心的役割を果している。このリン酸化によって脂肪生合成能には変化はないが、インスリン感受性を改善するアディポサイトカインであるアディポネクチンの発現が減少するなど、肥満によって発現が変化する多くの遺伝子の制御異常が生じる。

このCdk5によるPPARγのリン酸化は、PPARγに結合する抗糖尿病薬、例えばロシグリタゾンやMRL24によって阻害される。この阻害はインビボでもインビトロでも認められ、これまでの転写の活性化とはまったく無関係である。

さらに、肥満患者におけるロシグリタゾンによるPPARγのリン酸化阻害は、この薬物の抗糖尿病効果と強く相関していた。

これらの結果は、Cdk5によるPPARγのリン酸化がインスリン抵抗性という病態に関連していること、そしてPPARγに関連する新しい抗糖尿病薬が開発できる可能性を示している。


ロシグリタゾン(商品名:アバンディア)やピオグリタゾン(商品名:アクトス)などのチアゾリンジオン系抗糖尿病薬は、核受容体PPARγのアゴニストであると同時に、肝臓や筋肉などの臓器のインスリンに対する感受性を高める作用を持っています。

これらの薬物がインスリンに対する感受性を高めるメカニズムについては良くわかっていませんでした。というよりも、私などはPPARγのアゴニストとして作用することがそのメカニズムだと思っていました。

しかし、本論文は、Cdk5というキナーゼがPPARγをリン酸化するのを阻害することがこれらの薬物がインスリン感受性を増強し、抗糖尿病作用を発揮するメカニズムであると主張しています。

MRL24という化合物は、Cdk5によるPPARγのリン酸化を強く阻害し、強い抗糖尿病作用やインスリン感受性増強作用を示しますが、PPARγに対するアゴニスト作用は弱いことが示されました。また、糖尿病治療中の患者でも治療がうまく行っている場合は、PPARγのリン酸化が治療前と比べて低下することも示されました。

これらの事実は、薬物のPPARγに対してアゴニストとして働く作用ではなく、Cdk5によるPPARγのリン酸化を阻害する作用が、抗糖尿病作用やインスリン感受性増強作用と関連することを示しています。

ロシグリタゾンのリン酸化阻害作用は、PPARγとの結合に依存しているようで、Cdk5の他の基質であるRbのリン酸化には影響しないそうです。また、実験で用いられた抗糖尿病薬はPPARγのリン酸化を完全にブロックするわけではないので、より強力にリン酸化を阻害する薬物を開発すれば、より強力にインスリン感受性を高める薬物ができるかもしれないそうです。

この論文の主張が正しいとすると、これまで薬理作用だと考えられていたPPARγに対するアゴニスト作用は、体重増加や体液貯留などの副作用には関連しても、インスリン感受性の増強や抗糖尿病作用とは関連しないことになります。

残念なのは、ピオグリタゾン(商品名:アクトス)がこの実験ではまったく用いられていないことです。これまでの報告では、ピオグリタゾンの心血管リスクはロシグリタゾンよりも低いようですので、Cdk5によるPPARγのリン酸化阻害作用に対するこれら2つの薬物の影響を比べてみて欲しかったです。

MRL24が市場に出てくるかどうかわかりませんが、この論文をきっかけに新しい抗糖尿病薬が市場に出てくるかどうかを注目したいと思います。

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