TORC1/2キナーゼ阻害薬を用いた白血病治療

Effective and selective targeting of leukemia cells using a TORC1/2 kinase inhibitor

以下は、論文の要約です。


mTORを標的とすることは、がん治療の有望な戦略である。mTORキナーゼは、TORC1とTORC2という複合体として働く。しかし、アロステリック阻害薬であるラパマイシンあるいはそのアナログは、これらの複合体のいずれをも完全に阻害することはできない。

研究者らは、フィラデルフィア染色体転座をもつ急性白血病をモデルとして、ラパマイシンとmTORキナーゼの活性部位阻害薬であるPP242の効果を比較した。

その結果、ラパマイシンではなくPP242が、マウスとヒトの白血病細胞のアポトーシスを誘導した。生体内において、PP242は白血病の発症を遅らせ、最新のチロシンキナーゼ阻害薬(dasatinib)の効果を増強した。これらの効果はラパマイシンよりも強かった。

驚いたことに、PP242が正常リンパ球の増殖や機能に与える影響は、ラパマイシンよりもはるかに弱かった。PI3Kキナーゼも阻害する選択性の低いTORC1/2キナーゼ阻害薬であるPI-103の免疫抑制作用は、PP242よりも強かった。

これらの結果は、フィラデルフィア染色体転座をもつ白血病細胞は、正常リンパ球よりも特異的TORC1/2キナーゼ阻害薬に対する感受性が高いこと、そして白血病治療に向けてこのような薬物を開発することを支持している。


一昨日は、ラパマイシンとラパログの話を書きましたが、今日はその続きということで、TORC1/2キナーゼ阻害薬についての記事を紹介します。

この論文では、抗がん薬としてのラパマイシンの弱点として、1)TORC1が抑制されるとS6KによるIRS1を介したPI3Kの抑制が解除されてしまう(下の図を参照)。

2)TORC1の抑制は不完全で、4E-BP1のリン酸化も完全には抑制されない。の2つをあげて、TORC1/2キナーゼ阻害薬の優位性を強調しています。

一方で、TORC1/2キナーゼ阻害薬の効果とmTORノックアウトの効果とが全く違うことについては、TORC複合体にはリン酸化以外の働きがあるのではないか、という議論をしています。PP242にほとんど免疫抑制作用がないことも不思議です。これについては、PP242によるTORC1/2キナーゼ阻害は、一時的かもしれないという苦しい議論をしています。

いずれにしてもBCR-ABLチロシンキナーゼ阻害薬であるdasatinib(商品名:スプリセル)の効果を増強することは、注目すべき結果だと思います。がん治療の選択肢の1つになることを祈ります。

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