マラリア媒介蚊 Anopheles stephensiの遺伝子操作によるAkt活性化と感染防御

Activation of Akt Signaling Reduces the Prevalence and Intensity of Malaria Parasite Infection and Lifespan in Anopheles stephensi Mosquitoes(Aktシグナルの活性化は、ハマダラ蚊のマラリヤ原虫感染の有病率と重傷度を減少させ、蚊の寿命を短縮する)

以下は、論文の要約です。


マラリア感染による死者は年間約100万人で、この死者の数は抗マラリア薬や殺虫剤に対する耐性が現行の疾病対策の効果を弱めるに従って増加するだろう。

最も重要なヒト・マラリア菌であるPlasmodium falciparumは、宿主の蚊の体内で複雑な生活環を経て約2週間で蚊の中腸に侵入し始める。

本研究では、蚊の中腸においてAktシグナルを活性化すると、マラリア原虫の発達を障害すると同時に蚊がヒトに原虫を感染させる時間を短縮することを示した。

具体的には、ヘテロのトランスジェニック・ハマダラ蚊の中腸でAktシグナルが増加すると蚊の感染率が60–99%減少する事を見出した。

トランスジェニック蚊が感染した場合、野生の蚊と比べると原虫は75–99%減少していた。ホモのトランスジェニック・ハマダラ蚊でAktシグナルを増加させた場合、原虫感染は完全にブロックされた。

また、中腸特異的Aktシグナルの増加は、蚊の平均寿命を18–20%短くした。

このように、ハマダラ蚊中腸におけるAktシグナルの活性化は、マラリア原虫に感染する蚊の数と感染した蚊におけるマラリア原虫の数を減少させ、蚊による感染可能期間を短縮する。


7月16日のBBCでは、”Malaria-proof mosquito engineered(マラリア耐性蚊の遺伝子工学的作製)”というタイトルで報道されています(記事をみる)。

マラリア原虫がハマダラ蚊の唾液腺に侵入しなければ、ヒトには感染できません。そこで、研究者らはマラリア原虫の発達に影響する蚊のシグナル伝達系として、インスリン/Aktシグナル経路に注目しました。

インスリン刺激は、Aktの細胞膜へのトランスロケーションをひき起こします。トランスロケーションしたAktは細胞膜に存在するPDK1によってリン酸化・活性化されます。活性化されたAktはFOXO1という転写因子をリン酸化して活性化します。蚊では、Aktシグナル経路は自然免疫と寿命を制御しています。

研究者らは、ミリストイル化(脂質修飾の一つ)配列をAktのN末端に導入しました。ミリストイル化されたAktは、インスリンによる活性化がなくても細胞膜へ運ばれ、PDK1によってリン酸化・活性化を受け、FOXO1を活性化します。

N末端のミリストイル化配列に加えて、識別のためにC末端にHAタグを導入した恒常的活性化型Aktを中腸特異的なプロモーター下で発現するように構築したプラスミドを蚊のembryo(ボウフラ?)にトランスフォームしてトランスジェニック・ハマダラ蚊を作ったようです。

Aktという1つの分子だけを遺伝子操作することでハマダラ蚊をほぼ無害にできるのはおもしろいアイディアだと思います。

しかし、このような遺伝子組換え蚊で野生の蚊を駆逐するのはどうすれば良いのでしょうか?科学的な問題だけではなく、倫理的・法的な問題もクリアする必要がありそうです。

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コメント

  1. uncorrelated より:

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    日本のデータだと、公衆衛生が良くなるとマラリアは急激に感染が減って、ほぼ絶滅しますね。

  2. tak より:

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    >uncorrelatedさん
    そのとおりです。関連記事に書かれているように、温暖化にも関わらず、マラリアは激減しています。
    日本のデータは良く知りませんが、マラリアのコントロールには公衆衛生が非常に重要だと思います。

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