カンジダ・アルビカンスの病原性と関連するのは、形態転換能ではなくグルコシルセラミドである。

Systematic screens of a Candida albicans homozygous deletion library decouple morphogenetic switching and pathogenicity
(カンジダ・アルビカンスの2倍体ノックアウトライブラリーを体系的にスクリーニングした結果、形態転換能と病原性が分離した)

以下は、論文の要約の抜粋です。


カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)は、ヒトの重症真菌感染症の最も一般的な原因である。このカンジダの2倍体ノックアウトライブラリーをつくることで病原性メカニズムの解析が可能になる。

これまでの文献では、カンジダ・アルビカンスの病原性は、in vitroで酵母型から菌糸型へ形態転換する能力とほぼ完全な相関があるとされていた。

しかし、これまでのほとんどの研究では病原性と関連する栄養マーカーが使われていたため、解釈に問題があった。研究者らは、別のマーカーを用いてカンジダ・アルビカンスゲノムの約11%に相当する674遺伝子に影響する約3,000個のホモ接合体ノックアウト株をつくった。

マウスモデルにおける感染性とin vitroでの形態転換と細胞増殖をスクリーニングして、115個の感染性が減弱した変異体を同定した。驚いたことに、この変異体の約半分は形態転換も細胞増殖も正常であった。

これらの感染性減弱変異体を解析した結果、病原性には糖脂質であるグルコシルセラミドが必要であることがわかった。

グルコシルセラミドはカンジダ・アルビカンスの病原性に必須であることがわかった最初の低分子量化合物である。


カンジダ・アルビカンスは、胞子形成しないことや染色体が異数性であるため、これまでは遺伝学的アプローチがうまく行きませんでした。

二倍体ノックアウトライブラリーをつくるという地道なアプローチが、これまでカンジダ・アルビカンスの病原性について信じられていた「病原性は形態転換能と相関する」という「常識」を覆しただけではなく、病原性にグルコシルセラミドが必須であるという発見に到達したのは、かなりラッキーだと思います。

本筋ではないですが、これまで使われていたマーカーURA3は病原性に影響し、今回の実験で用いられたHIS1LEU2は影響しないというのは、我々の使っている細胞と良く似ています。出芽酵母などでは栄養マーカーはほとんど表現型に影響しません。

グルコシルセラミド合成に関与するhsx11という遺伝子は、ホスファチジルグリセロールリン酸合成酵素をコードします。この遺伝子の出芽酵母ホモログはPGS1で、その破壊株はアゾール系薬物、アムホテリシンB、カスポファンギンなどの抗真菌薬に感受性を示します。hsx11は、新しい抗真菌薬の標的分子候補だと思います。

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