慢性疼痛に対する感受性は遺伝子で決まる

Genetically determined P2X7 receptor pore formation regulates variability in chronic pain sensitivity

以下は、論文要約の抜粋です。


慢性疼痛の感受性は鎮痛薬の効果と同様、個体差がきわめて大きい。慢性疼痛と鎮痛薬に対する応答におけるばらつきの多くは遺伝的なものであるが、その原因となる遺伝的決定因子についてはほとんど不明である。今回我々は、P2X7受容体をコードする遺伝子のコーディング配列内の変異が、慢性疼痛の感受性に影響を及ぼしていることをマウスとヒトの両方で示す。

P2X7受容体はATP依存性イオンチャネル受容体のファミリーに属し2種類の異なる機能を持っている。それは、元々のイオンチャネルの機能と、分子量900Daまでの分子を透過させる小孔形成による機能という2つの機能である。我々は全ゲノム連鎖解析によって、神経損傷によって誘発される疼痛行動(機械的異痛症)と、マウスP2rx7遺伝子のP451L変異との間の関連性を発見した。即ち、P451L変異によって小孔形成が障害されているマウスでは、小孔が形成されるマウスに比べて異痛症が少ないことを見いだした。

P2X7RのC末端ドメイン配列を持つペプチドを投与すると小孔形成を阻害するが、カチオンチャネル活性は阻害せず、小孔を形成するP2rx7遺伝子を持つマウスでのみ神経損傷および炎症による異痛症の軽減が認められた。さらに、乳腺切除後および変形性関節症を有する2つの独立した慢性疼痛に関わるコホート研究において、より低い疼痛強度とP2RX7遺伝子の機能不全変異体His270(rs7958311)との間に遺伝的関連を見いたした。

今回の結果は、慢性疼痛の治療の個別化にむけて、P2X7Rによる小孔形成を選択的な標的とする新しい治療戦略の可能性を示唆している。


この論文で問題になっている「機械的異痛症(mechanical allodynia)」とは、通常では痛みを引き起こさない刺激によって痛みが生じる状態を示し、乳がん手術後や変形性関節症などの慢性疼痛の主な症状の1つです。

私はマウスの系統間に痛み感受性の違いがあるとは知りませんでしたが、研究者らはこの痛み感受性の違いに着目し、マウスのP2rx7遺伝子の変異が関係することを明らかにしました。

具体的には、T1352番目の塩基TがCに変異すると、P2X7受容体の細胞質ドメインにある451番目のアミノ酸プロリンがロイシンに代ります。このP451Lマウスは、通常の機械的侵害刺激による痛みは野生型と同じですが、機械的異痛症の頻度が有意に低いことがわかりました。また、P451LマウスはP2X7RのC末端ペプチドペプチドによる疼痛軽減効果が認められませんでした。

研究者らは、ヒトでもP2RX7遺伝子の変異が慢性疼痛の発生やその疼痛管理に影響するとしています。特に、小孔形成機能に異常を持つヒトでは通常の疼痛管理や治療が無効な可能性があるので、P2RX7遺伝子の多型・変異解析が慢性疼痛の個別化治療に重要だとしています。

痛みに対する感受性が根性だけでなく遺伝子で決まることがわかったのは非常に重要な発見だと思います。

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