以前関連記事で、人工呼吸しない胸骨圧迫単独の新しい心配蘇生法(CPR, cardio-pulmonary resuscitation)を紹介しましたが、胸骨圧迫単独によるCPRに関する臨床試験結果が2報、NEMJに掲載されました。以下は、それらのタイトルと抜粋です。
CPR with Chest Compression Alone or with Rescue Breathing(胸骨圧迫単独によるCPRと胸骨圧迫・人工呼吸併用によるCPR)
背景:救急の通信指令員が、居合わせた人に胸骨圧迫のみを行うよう指示した場合に、胸骨圧迫と人工呼吸を行うよう指示した場合よりも生存率が改善するという仮説を立てた。
方法:多施設ランダム化試験を行った。対象は、院外心停止を起こした18歳以上で、通信指令員が居合わせた人にCPRを指示した患者。患者を胸骨圧迫単独群と胸骨圧迫+人工呼吸群のいずれかにランダムに割りつけた。主要転帰は生存退院とし、副次的転帰は退院時の神経学的転帰良好などとした。
結果:1,941例のうち、981例が胸骨圧迫単独群、960例が胸骨圧迫+人工呼吸群。生存退院率(12.5% 対 11.0%)や、副次的転帰(14.4% 対 11.5%)において、両群間の有意差は認められなかった。しかし、サブグループ解析では、胸骨圧迫単独による生存退院率は、胸骨圧迫+人工呼吸と比較して、心原性心停止(15.5% 対 12.3%)と除細動可能リズムを呈した患者(31.9% 対 25.7%)とで高い傾向がみられた。
結論:通信指令員が胸骨圧迫のみを行うよう指示した場合、生存率に向上はみられなかったが、重要な臨床的サブグループの転帰が改善する傾向が認められた。これらの結果は、一般市民が行うCPRでは胸骨圧迫を重視し、人工呼吸の役割は最小限に抑える戦略を支持する。
Compression-Only CPR or Standard CPR in Out-of-Hospital Cardiac Arrest(院外心停止における胸骨圧迫単独によるCPRと標準的CPR)
背景、方法、結果は、上の試験とほぼ同様なので省略。
結論:前向きランダム化臨床試験の結果、院外心停止が疑われ目撃者のいる患者に対する救急隊到着までの処置として、通信指令員が胸骨圧迫単独CPRを指示した場合と標準的CPRを指導した場合とで、30日生存率に関して有意差は認められなかった。
これらの報告は、どちらも胸骨圧迫単独CPRの標準的CPRに対する優越性を検討する目的で行われました。どちらも全体での優越性は示せませんでしたが、一方の報告では、心原性心停止や除細動適応のリズムを呈した患者の場合、優越傾向が示されました。今後は、小児などの特殊な場合を除いて胸骨圧迫単独CPRが広まっていくと思われます。
私は、関連記事を読んだ時、この方法は日本オリジナルかと思ったのですが、残念ながらそうではないようです。探した中で一番古い論文は、ブタを使った実験的なもので、タイトルは”Bystander cardiopulmonary resuscitation. Is ventilation necessary?”です(論文をみる)。
ところが珍しいことに、臨床応用で日本が結構早く論文を出していて、日本大と帝京大を中心としたSOS-KANTO study groupによる”Cardiopulmonary resuscitation by bystanders with chest compression only (SOS-KANTO): an observational study”という2007年のランセットの論文は、今回紹介した論文でも引用されています(論文をみる)。
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