以下は、記事の抜粋です。
三つの遺伝子を、様々な細胞や組織を束ねる役割を持つ線維芽細胞に入れるだけで、心臓の拍動を担っている心筋細胞を作ることに、家田慶応大助教らがマウスで成功した。心臓病の治療に応用できれば、心筋細胞を体内で直接作れるため、iPS細胞から心筋細胞を作るよりも時間を大幅に短くでき、細胞の移植手術も不要になると期待される。
iPS細胞から心筋細胞を作って、心筋梗塞や心臓病を治療しようという研究が進んでいる。しかし、患者の細胞からiPS細胞を作り、心筋細胞にするまでに数カ月かかるうえ、iPS細胞を移植するとがん化する懸念がある。
家田助教らは、マウスの胎児の心臓で活発に働いている14の遺伝子を選び、心臓の細胞を束ねている線維芽細胞にウイルスを使って導入したところ、心筋細胞に変化することを発見。14の遺伝子のうち、特定の三つの遺伝子があれば、1~2週間で心筋細胞が作れることが分かった。
作られた心筋細胞が拍動するのも確認された。この心筋細胞をマウスの心臓に移植しても、iPS細胞のようながん化は見られなかった。心臓だけでなく、尾の線維芽細胞からも同じ方法で作ることができた。この心筋細胞を「誘導心筋細胞(iCM細胞)」と名づけた。
今後、人間の細胞でも同じように心筋細胞が作れるか調べる。人に応用できれば、外科手術をせずに、患者の心臓に細い管を通じて3種類の遺伝子を送り込み、患者の体内で心筋細胞が作れる可能性がある。
元論文のタイトルは、”Direct Reprogramming of Fibroblasts into Functional Cardiomyocytes by Defined Factors”です(論文をみる)。
関連記事としても紹介しましたが、iPS細胞を経ずに直接再プロブラミング(分化誘導)した例としては、膵臓の外分泌細胞にbHLH、Neurogenin 3、Pdx1、Mafaを導入することでβ細胞を、線維芽細胞にAscl1、Brn2、Myt1lを導入して神経細胞を作った例があり、線維芽細胞にGata4、Mef2c、Tbx5を導入して心筋細胞をつくったこの例は3番目です。
前回の神経細胞の時も書きましたが、組織特異的な転写因子を繊維芽細胞に入れていろいろな細胞へ直接再プログラムさせる実験結果がどんどん出てきそうです。
この記事にも書かれているように、iPS細胞を経るよりも線維芽細胞を直接再プログラムして神経細胞や心筋細胞をつくったりする方が、各臓器の再生医学への応用という方向ではより優れていると思われます。
第一著者は日本人ですが、研究が行われたのはアメリカです。日本の研究グループが「iPS細胞の応用」というプロジェクト型研究の枠に縛られている間に、iPS細胞を経ない直接再プログラミングが自由に研究されていたあたりに、アメリカの研究の深さを感じます。
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