アービタックス KRAS遺伝子の変異の有無考慮して投与を 厚労省指導
以下は、記事の抜粋です。
厚労省医薬食品局安全対策課は、3月23日付に発出した通知で、治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌に用いる抗がん剤アービタックス(一般名:セツキシマブ)の添付文書に、KRAS遺伝子の変異の有無を考慮して投与することを追記するよう指導した。同剤は、KRAS遺伝子に変異のない(野生型)患者に効果が高いことが臨床試験で明らかになってきている。KRAS遺伝子変異検査が4月には保険適用となる予定であり、診断薬は承認審査中という状況から判断したもの。
アービタックスは、メルクセローノとブリストル・マイヤーズが販売している。今回発出した通知で、「効能・効果に関連する使用上の注意」の項に「本剤の使用に際してはKRAS遺伝子変異の有無を考慮した上で、適応患者の選択を行うこと」と追記するよう指示。臨床試験の項に選択に参考になるデータを記載させる。
変異の有無を事前に調べる環境が整いつつある中で、有効性より重篤な副作用を起こす危険性が高まる効果の低い変異型患者への投与を避ける狙いがある。
KRAS遺伝子と薬剤投与の関係では、3月23日に薬食審・薬事分科会で承認が了承された、武田薬品の抗がん剤ベクティビックス(一般名:パニツムマブ)の効能・効果に「KRAS遺伝子野生型の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん」と、効果の高い患者を選び投与することが明記された。
KRAS遺伝子に変異があると、がん細胞の増殖シグナルが出続けてしまうため、薬効が低くなってしまう。変異がない野生型には効果が高いことが知られており、野生型は全患者の6割といわれる。
セツキシマブ (Cetuximab、商品名:アービタックス(Erbitux)) は、上皮成長因子受容体 (EGFR) に結合して、働きを阻害するモノクローナル抗体です。パニツムマブもEGFRに対するモノクローナル抗体です。セツキシマブがキメラ型抗体であるのに対して、パニツムマブは完全ヒト型抗体であることが違いです。
EGFRは、25-77%の大腸がんに発現しており、浸潤性の高い大腸がんではEGFRの発現が多いこと、EGFRの発現が多い大腸がんは肝転移が多く予後が悪いこと、などが知られています。
肺線維症の副作用が問題となったゲフィチニブ(Gefitinib、商品名:イレッサ)は、EGFRのチロシンキナーゼを選択的に阻害する低分子化合物です。一方、セツキシマブは内因性の成長因子(EGF)よりもEGFRに対して親和性が高く、EGFシグナルを阻害するとともに、IgG1抗体としての抗体依存性細胞障害活性をもつと考えられています。EGFシグナルが阻害されると、細胞周期停止、アポトーシス、血管新生抑制などによる抗腫瘍効果が期待されます。
大腸がんにおけるEGFR発現は、乳がんのHER2と異なり、遺伝子増幅がほとんど認められないので、抗EGFR抗体を用いた免疫組織染色法がセツキシマブを使うか使わないかを決める上で重要です。
発売当初セツキシマブは、従来型の化学療法が効かなかった患者全体に向けた薬として大ヒットし、10億ドル単位の売り上げを上げました。ところが、その後の研究によって、大腸がん患者の約半数にあたるKRAS変異のある患者には効かないことがわかりました。
その理由は、下の図のようにEGFシグナルはGrb-2とSOSを介してRASに伝わるからです。RASが活性型に変異している場合は、いくらEGFRレベルで阻害しても効果はありません。このため、上の記事のように、セツキシマブ投与にはKRAS遺伝子変異検査が必要だということになりました。
セツキシマブが、KRAS遺伝子野生型の大腸癌患者に、ファーストラインとして投与でき、投与前におけるKRAS遺伝子変異検査が保険適用になれば、大腸癌の個別化治療が一層進むでしょう。今後は、このような分子標的薬の投与と遺伝子検査の組み合わせが増えることが予想されます。
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