ディープラーニングで新たに広がる創薬ビジネスの輪:「AI創薬」コンソーシアムで産業競争力と医療が変わる
以下は、記事の抜粋です。
医療の現場では、世にあふれる疾患を治療する手段として、新薬に対する期待は依然として大きい。今、新薬開発の現場で大きな期待を寄せられているのが、ディープラーニングなどのAI技術だ。AIの活用によってシミュレーション性能の向上を図る製薬手法が提唱されている。
創薬の基本は、疾患の原因となるタンパク質を見つけ出し、そのタンパク質と結合し活性を抑えるような化合物を開発すること。
生体内には10万種以上のタンパク質が存在しており、まず、その中から標的となるタンパク質を探すことから始まる。しかし、ターゲットとなるタンパク質が1種類なら話は早いが、実際には複数種類のタンパク質が複合的にその疾病に関与していることの方が多い。
そして、ターゲットとなるタンパク質を発見できたら、その標的タンパク質と結合できる立体構造を持つ化合物を、製薬メーカーの所有する化合物ライブラリーから探していく。このライブラリーにも数万種の化合物が含まれており、1つ1つすべてをテストするわけにはいかないので、実際には分子構造などからシミュレーションを行い、候補を絞っていく。
そうして、新薬の候補となった化合物について、動物実験、さらには多段階の臨床試験を経て新薬として認可されれば、ようやく医療の現場に届けられることになる。今では、新薬1つあたりの研究開発費は1000億円を超え、開発期間は10年以上を要しているという。
しかし、その状況は2012年頃から大きく変わった。化合物の構造から活性を調べる方法として、ディープラーニングが有効であるという報告が海外の研究室からなされ、そこから「AI創薬」への期待が世界的に高まってきたのだ。
タンパク質と化合物の結合するパターンを、膨大なデータから学習し、それを予測することで、標的のタンパク質に結合する化合物、つまり薬の候補を効率よく見つけていくことができる。
スーパーコンピューター「京」を用いたときは、約25万件の相互作用データを学習するのが精一杯だったという。その後、2014年から2015年にかけてインテルのXeon搭載サーバーで計算した結果、100万件、200万件、さらには400万件までのデータの学習を実現した。さらには、それに付随して予測率の向上も見られたという。
その背景には、大きく2つの要因があった。1つは、豊富なシステムメモリを活用したディープラーニング。もう1つは、候補となる化合物の表現方法だ。フェイスブックの「DeepFace」では、「たたみ込みニューラルネットワーク」という局所的な特徴に注目した手法を用い、精細な予測を可能にしている。
従来は、標的のタンパク質と化合物のライブラリーを与えて、それらから反応するものを見つける典型的な機械学習の枠組みであっが、次世代のAI創薬においては疾患自体を入力すると、それに対応する新規の化合物を薬の候補を提案するようになるという。
AIを製薬に取り入れたいという企業と、AIの研究テーマを求める研究機関が手を取り、ライフインテリジェンスコンソ-シアム(Life Intelligence Consortium; LINC)が立ち上がった。これは、製薬のみならず、化学、食品、医療、ヘルスケア関連のライフサイエンス分野を広く扱い、2017年10月時点で、89の企業や機関が参画している。
このコンソーシアムの枠組みは、前競争段階(プレコンペティティブエリア)と競争段階(コンペティティブエリア)の2つに分かれる。前競争段階は、いろいろな企業のオープンイノベーションのような形だ。標準モデルを開発し、コンソーシアムや業界全体で共有して、業界全体の底上げを目指していく。競争段階では、個々のビジネスとして、企業が標準モデルを改良し、それぞれの持つデータなどを活用して、製品の開発に取り組んでいく。この2つの段階で、ライフサイエンス分野の産業競争力を、さらに加速していくことを目指している。
AI創薬がもたらす経済効果として、現在は1品目あたり1000億円を超える研究開発費がかかっているが、仮に開発期間を4年短縮できたとすると、560億円まで削減できるという。
これまでのデータの集積から新しい薬をみつけるという手法をAIに任せるとすると、創薬を研究するヒトは何をすべきかが問われることになります。「ロードマップ」が書けるような研究は、AIがロボットを使ってするようになるでしょうから、ヒトがコンスタントに成果を出すのが難しくなるか、出しても評価されなくなる可能性が高いです。ますます、日本で研究者として生きるのが大変な時代になりそうです。
日本で創薬された薬の例は、プラバスタチン(メバロチン®)、タクロリムス(プログラフ®)、フェブキソスタット(フェブリク®)、ニボルマブ(オプジーボ®)など、数えるほどです。AIでアメリカや中国に大きく遅れている現状を考えると、日本で「AI創薬」を使って新しい薬が発見される可能性は、今後ますます低くなると思います。これまで得意だった、少し構だけ造が違う「改善」薬を探すのも難しくなるかもしれません。
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