神戸新聞の記事によると、小林麻央さんの訃報を受け、乳がん検診への関心が高まっており、兵庫県加東市が実施する検診では、5、6月の集団検診申込数は前年比1.6倍の25人だったそうです。また、受診の動機には小林さんの名前を挙げる人が多いそうです。麻央さんは34歳で亡くなったので、この記事や記事の写真(下)を見ると、乳がんの「早期発見、早期治療」のために、若い女性がマンモグラフィーなどの乳がん検診を受けることが奨励されているような印象を受けます。
しかし、乳がんはその遺伝子異常によって少なくとも4種類以上に分類されます。麻央さんが罹った乳がんは、中高年に多い通常の乳がんとは遺伝的に区別され、原因と治療を考えると、ほとんど別の病気と言っても良いタイプの乳がんの可能性が高いです。民間治療は論外ですが、初めから標準治療を受けていても同じような経過をたどった可能性は否定できません。
閉経前の女性が罹る若年性乳がんは、乳がん全体の2.7%しかない上に「吹雪の中のシロクマ」のように発見が難しいので、若年者に対して乳がんの「早期発見、早期治療」を勧めるのは問題があります。偽陽性となった場合の過剰診断や過剰治療、放射線被ばくによるリスクもあることからWHOは、「マンモグラフィーによる検診で患者にメリットがあるのは50~59歳のみ」という見解を示しています。
従って、以前TBSが推進していた「20‐30代女性に限定した乳がん検診」は疑いなくメリットよりもリスクが多い誤ったキャンペーンです(記事をみる)。中高年に多い通常の乳がん治療の良好な予後を考えれば、キャンペーンに出てくる検診で命が救われた女性の話のほとんどは誤解か誇張です。
以前にも書きましたが、長年の「ピンクリボン運動」にもかかわらず、乳がんによる死亡はほんの少ししか減少していません。一方、このキャンペーンのために、多くの女性が不必要な検査や治療を受けている可能性があります。キャンペーンの結果、検査や治療が増えれば、キャンペーンスポンサーの製薬会社や検査会社の利益が増えます。麻央さん報道やそれに便乗した早期発見キャンペーンの後ろに誰かがいるような気がするのは考えすぎでしょうか?
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コメント
残念ながら、
「麻央さん報道やそれに便乗した早期発見キャンペーンの後ろに
誰かがいるような気がする」
のは、通常の警戒心を持つ健康な常識人なら、大概の人がそうでしょう。
マンモグラフィによる「早期発見、早期治療」は、目指さないほうが吉です。