抗精神病薬が標的にするニューロンが数十年にわたり誤解されていた可能性があるという研究結果
以下は、記事の抜粋です。
主に統合失調症などの症状を緩和するために用いられている抗精神病薬が標的にしているドーパミン受容体が過去数十年にわたり誤解されてきた可能性があると新たな研究で示さました。
神経科学者らは長年にわたり、抗精神病薬はドーパミン受容体に結合し、極端なドーパミン伝達を抑制すると考えてきました。ドーパミン受容体にはD1受容体とD2受容体の2種類がありますが、1970年代に行われた実験で、強力な抗精神病薬がD2受容体に強く結合することが示されたため、数十年間にわたり新たな抗精神病薬の開発はD2受容体を念頭において設計・改良されてきたとのこと。
ノースウェスタン大学のパーカー氏らの研究チームは、マウスに中枢興奮作用を持つアンフェタミンを投与し、脳内のドーパミンを過剰に分泌させました。マウスの脳に小さな内視鏡を埋め込んで調べたところ、アンフェタミン投与後のマウスではD1受容体の応答性が高くなり、D2受容体の応答性が低くなるというこれまでの知見に沿った結果が確認されました。
続いて、抗精神病薬としての効果が確認されているハロペリドール・オランザピン・クロザピン、そしてファイザーが開発したものの臨床試験で精神疾患症状を悪化させることが確認されたため認可されなかったMP-10という4種の薬物を投与し、マウスの脳内でどのように作用するのかを調べました。
その結果、ハロペリドールとオランザピンはD2受容体でアンフェタミンの効果を和らげたものの、クロザピンはD2受容体において有意な効果を示さないことが判明。さらに、抗精神病薬として効果がある3種の薬剤はいずれもD1受容体の活動を正常化させることが確認され、D2受容体ではなくD1受容体への作用が薬の効果に関与していることが示唆されました。一方、抗精神病薬としての効果がなかったMP-10はD2受容体の活動を正常化させたものの、D1受容体の異常な活動を悪化させたことが確認されました。
さらにパーカー氏らが、アメリカ食品医薬品局(FDA)の承認に必要な最終臨床試験まで進んだ有望な新薬について調査したところ、いずれの抗精神病薬もD1受容体を正常化することがわかりました。マウスの行動観察からも、効果がないことが知られているMP-10を除くすべての抗精神病薬で、アンフェタミンによる異常な動きを抑制するのに役立つことが示されました。
研究チームは、「D2受容体ではなくD1受容体こそが抗精神病薬の主要な推進力である可能性がある」と指摘しています。
元論文のタイトルは、”Antipsychotic drug efficacy correlates with the modulation of D1 rather than D2 receptor-expressing striatal projection neurons(抗精神病薬の有効性は、D2受容体発現の線条体投射ニューロンよりもむしろD1受容体の調節と相関する。)”です(論文をみる)。
何十年も前からSCH-23390という薬がD1受容体選択的阻害薬として知られています(記事をみる)。Nature Neuroscience誌に掲載された論文ですが、D1受容体が抗精神病薬の重要な標的と言うためにはもっと証拠が必要だと思います。
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