レチノイン酸受容体RXR-γシグナルは、中枢神経系におけるミエリン再生を促進する

Retinoid X receptor gamma signaling accelerates CNS remyelination

以下は、論文要約の抜粋です。


中枢神経系におけるミエリン再生の分子メカニズムは良くわかっていない。我々は、ラットのミエリン除去後の自発的ミエリン再生各ステップでのゲノムワイドな転写プロファイルを調べた。

その結果、ミエリン再生時に、レチノイン酸受容体の一つであるRXR-γの発現が、特異的に増加することがわかった。

オリゴデンドロサイト系統の細胞は、ミエリン再生中の組織や活動中の多発性硬化症(multiple sclerosis)障害部位でRXR-γを高発現していた。一方、RXR-γのノックダウンやRXR-γ特異的拮抗薬の投与は、培養細胞がオリゴデンドロサイトへ分化するのを強く抑制した。

RXR-γノックアウトマウスでは、ミエリン除去部位にオリゴデンドロサイト前駆細胞が集まってくるが、成熟した細胞になるのに遅れが生じた。

RXR受容体アゴニストである9-cis-レチノイン酸を、ミエリン除去した小脳スライス培養やミエリン除去した高齢ラットに投与すると、軸索でのミエリン再生を増加させた。

これらの結果は、RXR-γがオリゴデンドロサイト前駆細胞の分化とミエリン再生を正に制御することと、RXR-γを分子標的とした薬物が中枢神経系再生治療に貢献する可能性を示している。


多発性硬化症(multiple sclerosis、MS)は、脳や脊髄に自己のリンパ球などが浸潤する自己免疫疾患で、神経組織の炎症と神経細胞の軸索を絶縁している髄鞘の脱髄がおこります。欧米の白人に多く、北欧では人口10万人に50人から100人位の患者がいます。わが国では、10万人あたり1~5人程度とされています。

欧米では、再発・寛解をくり返す(relapsing-remitting)RR-MSに対しては、interferon-βとglatiramer acetateが用いられます(glatiramer acetateは日本では未承認)。重症の場合は、抗α4インテグリン単クローン抗体であるnatalizumabが用いられます(日本未承認)。しかし、これらは効果が弱く、副作用が強いとされています。

最近、フィンゴリモド(fingolimod, FTY720)という経口薬が、interferon-βよりも有効であるという臨床試験結果が報告され、アメリカでは本年9月に承認されました(関連記事1)。フィンゴリモドは、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)アナログとして働きます。

S1PはT細胞などの遊走を促進させます。MSは、脳や脊髄に自己リンパ球などが浸潤する自己免疫疾患ですので、フィンゴリモドがT細胞の遊走能を減弱させると、炎症が抑制されます。また同時に、抗体を産生するB細胞の働きも抑制されます。これらがMSの症状を改善すると考えられています( 関連記事2)。

本研究では、MSによって失われた髄鞘を再生させるスイッチとしてRXR-γが発見されました。これによて、障害部位でRXR-γを特異的に刺激し、ミエリン再生を促進する薬物が登場する可能性が出てきました。フィンゴリモドなどとの組み合わせにる、MSの治療成績の向上が強く期待されます。

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2. 新規クラス多発性硬化症治療薬フィンゴリモドをロシア規制当局が承認

コメント

  1. 江戸切子 より:

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    こんにちは。「ミエリン再生」で検索してこちらにやってきました。
    主人が副腎白質ジストロフィーです。
    ミエリン再生の治療を行ってくれる病院を探しています。どちらかそのような権威をご存じないでしょうか?どんな情報でも結構です。ご教示のほどよろしくお願いします。

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