脳動脈瘤治療の大転換点となるか? flow diverterの適応拡大

脳動脈瘤治療の大転換点となるか? flow diverterの適応拡大
以下は、記事の抜粋です。


ステントの網目の細かいflow diverterはコイルなしで治癒を促す
脳動脈瘤の治療として、長らく開頭クリッピング術が標準的治療でしたが、1990年代に電気離脱式コイルの開発により、血管内治療(コイル塞栓術)が急速に発展しました。そして2002年に発表された臨床試験で、破裂脳動脈瘤に対する1年後の治療成績は、クリップよりもコイルの方が優れていることが立証されました。以降、世界中で血管内治療が脳動脈瘤治療の第一選択として認知されてきました。

コイル塞栓術は、コイルを瘤内にくまなく挿入して、閉塞する手法ですが、特に入り口の広い広頚瘤や大型瘤では十分なコイルの充填が困難で治療が高難度となります。このため、バルーンやステントを併用してコイル塞栓を行う手技が考えられました(図1)が、このような工夫をしても、特に大型瘤では治療後の再発が高率に発生することが指摘されてきました。

動脈瘤の入り口(頚部)が狭い場合には、simple techniqueでコイル塞栓可能である。しかし頚部が広い場合には、補助テクニックとして一時的に風船で頚部を閉塞してコイル塞栓するballoon remodeling techniqueや、2本のカテーテルからコイルをより安定させて挿入するdouble-catheter technique、さらにステントを母血管に留置して塞栓するstent-assisted techniqueなどが導入されている。ステントのメッシュを細かくして、コイルを使用することなく、瘤の自然な血栓化を促すのがflow diverter stentである。

そこで、高難度大型動脈瘤に対する新たな治療として、flow diverter(FD:血流変更ステント)が開発されました。FDはステントの網目を細かくしたもので、母血管に留置するだけで、瘤内への血液流入を減じて、コイルを使用することなく、自然な瘤の血栓化・治癒を促すという画期的な治療です。2010年代になって、欧米でその有効性・安全性が認められ、2015年に本邦でも条件付き(最大径10mm以上の内頚動脈傍鞍部および海綿静脈洞部)で導入されました。世界的にFDの対象は、従来の治療で対応できない高難度大型動脈瘤に限定されてきましたが、中型瘤にも適応を拡げようとする機運が高まり、本論文の研究につながりました。

論文概要
術後3年で80%超で完全閉塞が得られた
本研究は、内頚動脈または椎骨動脈の12mm以下の広頚未破裂脳動脈瘤に対するPipeline embolization device(PED:世界で最も使用されているFD;本邦導入済み)を用いた治療の有効性、安全性についての前向き多施設共同研究であり、2020年に術後1年、2022年に術後3年の治療後成績が報告された。

治療1年後の脳血管撮影検査が行われた138例のうち、106例(76.8%)で完全閉塞が得られた。また、3例(2.1%)で術後重大な脳卒中を認めた。3例のうち2例は脳出血で、1例は抗血小板薬の自己中断による脳梗塞であった。

このPREMIER studyの1年後の結果をもとに、本邦でも2020年9月からPEDの適応が「最大径5mm以上の内頚動脈錐体部から床上部および椎骨動脈」に拡大された

PREMIER studyの3年後の報告では、138例のうち115例(83.3%)で完全閉塞が得られ、1例に新たに脳卒中を認め、安全性のend pointに該当したのは合計4例(2.8%)となった。3年の経過で術後動脈瘤の再発は1例のみであり、術後の動脈瘤破裂は1例も認めなかった。

さらに、本研究ではVerify Nowを用いて術前の抗血小板薬の効果判定を厳密に行っており、「基準値を満たさない場合は治療を行わない」といった厳格な管理がなされている。PEDの留置手技だけではなく、抗血小板薬を中心とした周術期マネージメントの重要性を示した点で貴重である。

中型瘤への適応拡大で恩恵を受ける患者が大きく増加
上述のように、血流変更ステント(FD)の登場は次のエポックメイキングな出来事となりました。これまでは、いかに瘤内に多くのコイルを安全に挿入して破裂・再発を防ぐかに注力されてきましたが、FDでは瘤内に器具を挿入することなく(術中破裂のリスクが事実上ゼロ)、母血管にFDを留置するだけで高率に閉塞が得られ、またいったん閉塞が得られれば再発はないとされる、夢のような治療です

未破裂脳動脈瘤の治療は、FDの登場、適応拡大によって大転換を迎えようとしています。従来のコイル塞栓術と比較して、瘤内操作がないため、術中破裂のリスクがないうえに、治療時間(被曝時間)も大幅に短縮され、コイルを使用しないことから費用対効果の向上も期待できます。今回のFD治療適応拡大は、多くの動脈瘤患者にとって大きな福音となるでしょう。

本邦では、1997年の電気離脱式コイル導入以降、欧米諸国に遅れながらも徐々に動脈瘤治療における血管内治療の頻度が増加し、2020年には遂に開頭術を凌駕しました。2015年から、FDは施設限定かつ高難度大型瘤のみの適応で本邦に導入されました。FDは低侵襲かつ根治性の高い治療として大きな期待がかかっており、本治療の適応拡大(施設・症例ともに)によって大転換を迎えようとしています。


紹介された2つの論文は、”Prospective study on embolization of intracranial aneurysms with the pipeline device: the PREMIER study 1 year results(パイプラインデバイスによる頭蓋内動脈瘤塞栓術に関する前向き研究:PREMIER試験1年成績、論文をみる)”と”Prospective study on embolization of intracranial aneurysms with the pipeline device (PREMIER study): 3-year results with the application of a flow diverter specific occlusion classification(パイプラインデバイスを用いた頭蓋内動脈瘤の塞栓術に関する前向き研究(PREMIER研究)。フローダイバータによる閉塞度分類を適用した3年後の結果、論文をみる)”です。

この2つは非常に注目されている論文で、この進歩によって脳動脈瘤を破裂前に発見できるかどうかがますます重要になると思います。

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