認知症患者に対する入院前後の抗コリン薬使用
以下は、記事で解説されている論文要約の抜粋です。
背景:認知症患者は、抗コリン薬の中枢作用に特に敏感な可能性がある。また、抗コリン薬は主な認知症治療薬であるコリンエステラーゼ阻害剤の効果に拮抗する。本研究では、英国の急性期病院における認知症患者に対する入院前後の抗コリン薬の処方を調査することを目的とした。
方法: 2019年に英国の17ヶ所の病院から352名の認知症患者を対象とした。各患者の投薬に関する情報を標準化されたフォームを用いて収集し、各患者の抗コリン薬負担を計算した。入院時と退院時の2つのサブグループ間の相関を調べた。
結果 :
・入院時、抗コリン薬負荷スコア1以上の患者は37.8%、3以上の患者は5.68%であった。
・退院時、抗コリン薬負荷スコア1以上の患者は43.2%、3以上の患者は9.1%であった。
・入院時から退院時にかけてのスコアの増加は、統計学的に有意であった(p=0.001)。
・向精神薬は、退院時に使用される抗コリン薬の中で最も多かった。
・コリンエステラーゼ阻害薬使用患者の44.9%に対し、抗コリン薬が使用されていた。
結論: 我々の横断的な多施設共同研究により、認知症患者はコリンエステラーゼ阻害剤を同時に服用していても抗コリン薬を処方されることが多く、入院時よりも抗コリン薬の負荷が高い状態で退院する可能性が有意に高いことが明らかになった。
元論文のタイトルは、”Anti-cholinergic drug burden in patients with dementia increases after hospital admission: a multicentre cross-sectional study.(認知症患者の抗コリン薬負荷は入院後に増加する:多施設横断研究)”です(論文をみる)。
神経伝達物質のアセチルコリンは、記憶において重要な役割を果たしていると考えられており、コリン作動性ニューロンの喪失は、アルツハイマー病やその他の認知症における記憶喪失と相関しています。向精神薬や風邪薬に含まれる多くの薬は、アセチルコリンの働きを阻害する抗コリン作用を持っています。
抗コリン作用を持つ薬を使えば、認知症が悪化したり、コリン作用を強化して認知症を改善しようとする薬の作用を阻害するのに、入院したら抗コリン作用のある薬が入院前よりもたくさん処方されており、おそらく認知症を悪化させているという報告です。
徘徊や暴力などを防ぐために処方される向精神薬などのためだと思われますが、難しい問題です。日本でもまったく同じだと思います。
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