以下は、論文要約の抜粋です。
エストロゲン受容体α(ERα、ESR1にコードされる)を標的とする薬物治療は乳がんの治療を大きく変えたが、治療後に再発する女性が多い。これは、ERα経路を修飾する新しい分子標的を発見することの重要性を示している。
siRNAスクリーニングを行い、そのsilencingによる発現抑制がERα応答を変化させるキナーゼを探索したところ、これまでERα活性の調節に関与するとされてきたマップキナーゼやAKTなどが同定された。最も強力に応答を変化させたキナーゼの1つは、これまでその機能が不明とされてきたlemur tyrosine kinase-3(LMTK3)だった。
LMTK3は、プロテインキナーゼC(PKC)を抑制してAKT(Ser473)のリン酸化レベルを低下させることで、FOXO3のESR1プロモーターへの結合を増加させる。また、in vitro では、LMTK3はERαをリン酸化してプロテアソームによる分解を受けないようにする(下図参照)。マウス同所移植モデルにおいて、LMTK3のsilencingは腫瘍体積を減少させ、ERα+細胞の増殖強く抑制するが、ERα-細胞の増殖に影響しなかった。
ヒトのがんでは、LMTK3の発現量とイントロン多型が、無病生存や全生存期間と有意に関連しており、内分泌療法への反応とも関連した。以上の結果は、乳がんの発生の仕組みを明らかにし、LMTK3が新しい分子標的となる可能性を示している。
ヒト乳がんの3分の2以上がERαを発現し、ERα+の患者は抗エストロゲン薬(タモキシフェン、フルベストラント)やエストロゲン合成阻害薬(アロマターゼ阻害薬)によく反応します。しかし、時間とともに耐性が生じることが多く、そのメカニズムとしてERαのリン酸化が示唆されています。
そこで、本研究ではヒト全キノーム(キナーゼとキナーゼ関連遺伝子691個)のsiRNAスクリーニングを行い、エストロゲン反応性遺伝子の発現を100%以上増やす遺伝子を5個と半分以下に減らす遺伝子を16個同定したそうです。この16個の中の1つがLMTK3です。LMTK3にはLMTK1とLMTK2というホモログがありますが、乳がんと関連があるのはLMTK3だけだそうです。
LMTK3がPKCを抑制するメカニズムなど不明な点もありますが、LMTK3のレベルや遺伝子多型と乳がんの予後が相関するようですので、LMTK3阻害薬が新しい分子標的薬になる可能性とともに、LMTK3の免疫組織染色などがERα+乳がんの良い予後マーカーになる可能性があると思います。
LMTK3は、ERα遺伝子の転写を促進し、分解を抑制して内分泌療法に対する耐性を増強する(Natureより)。
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