RAF inhibitors prime wild-type RAF to activate the MAPK pathway and enhance growth
以下は、要約の抜粋です。
KRASの活性化変異は、ヒト腫瘍の30%以上に見出され、BRAFの活性化変異は、メラノーマの40%以上に見出される。このように、マップキナーゼ経路を標的とした治療には、広範な効果が期待される。
ATP拮抗的RAFキナーゼ阻害薬は、変異型BRAF(V600E)によって発生する腫瘍に対して強い抗腫瘍効果を示すことが知られている。しかし、RASの変異によって発生する腫瘍に対しては、有効ではない。これは、マップキナーゼ・キナーゼ(MEK)阻害薬がRAS変異腫瘍に対して有効であることや、RAFがRASの下流かつMEKの上流で働くERKマップキナーゼ経路の重要なエフェクターであることと一見矛盾するように思われる。
我々は本研究で、ATP拮抗的RAFキナーゼ阻害薬が細胞の状態によって、まったく異なる正反対の働きをもつことを示す。
BRAF(V600E)腫瘍では、RAFキナーゼ阻害薬はマップキナーゼ経路を効果的に阻害し、腫瘍の増殖を抑制する。ところが驚くべきことに、KRAS変異腫瘍やRAS/RAFが正常な腫瘍では、RAFキナーゼ阻害薬は、RAF–MEK–ERK経路を逆に活性化し、細胞増殖を促進する。この活性化はRASに依存している。
野生型RAFへの阻害薬の結合は、ダイマー(二量体)形成によりRAFの活性化、細胞膜への局在化とRAS-GTP(活性型RAS)との相互作用をひきおこす。
これらの現象はRAF活性阻害とは独立しており、RAFのキナーゼ・ドメインの立体構造変化と関連している。
これらの結果から、ATP拮抗的RAFキナーゼ阻害薬は、細胞の状態によって、RAF–MEK–ERKマップキナーゼ経路の阻害、あるいは活性化というまったく正反対のもちうることが示された。さらに、これらの薬物の臨床的な使用についても新しい可能性を示した。
PLX4032などのBRAF阻害薬は、転移性のメラノーマの臨床試験で、MEK阻害薬よりも有効であることが示されていました。しかし一方、これらの阻害薬は皮膚の増殖性疾患や腫瘍を薬物依存的に発生させることも知られていました。
Natureに2報とCellに1報掲載された論文(本論文と関連論文)は、これらの一見矛盾した現象を説明できると思われる実験結果を報告しています。
まとめると、BRAF阻害薬は、メラノーマなどのBRAFに変異を持つ腫瘍では、非常に効果的にRAF–MEK–ERKマップキナーゼ経路細胞増殖を阻害するけれども、その他の腫瘍では逆に同経路を活性化することがあるということです。
そのメカニズムは、BRAFの特異的阻害薬は、二量体形成によってCRAFを活性化し、この過程は、RASの変異によって促進されるということのようです。このことは、BRAFの特異的阻害薬は、BRAF変異腫瘍には有効だが、RAS変異腫瘍には用いるべきではないということを示唆しています。さらに、BRAFの特異的阻害薬を用いる場合は、皮膚の増殖性疾患や腫瘍の発生に注意すべきであることも示唆しています。
いずれにしても、これまで予後が非常に悪いとされていた転移性メラノーマ対するBRAF阻害薬の成功は、歓迎すべき事実であり、今後さらに良い化合物の発見が期待できそうです。
関連論文・総説
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