フランスの下院で「死の支援(aide à mourir)に関する法律」が可決

フランスの下院で終末期患者の安楽死を認める法案が可決
以下は、記事の抜粋です。


安楽死を法的に認めている国は決して多くはない。特に「積極的安楽死」は2001年にオランダが初めて合法化して以来、ベルギーやルクセンブルクなどがあとに続いているが、8か国に留まっている。

2025年5月27日、フランス国民議会の下院(577議席)は安楽死を合法化する法案を、賛成305票、反対199票、棄権57票の賛成多数で可決した。秋に行われる上院での審議を通過すれば、フランスはヨーロッパで6番目の積極的安楽死を認める国になるという。

可決された法案は、一定の条件を満たす患者に対し、致死薬の処方を認めるものである。ただし、あくまでも患者が自ら致死薬を服用する形式が想定されている。だが患者が自分の手で服用するのが難しい場合は、医師や看護師の助けを借りることができる。フランスではこの法案を「安楽死」ではなく、「死の支援(aide à mourir)に関する法律」と呼んでいる。

この法案で「死の支援」の対象となるのは、以下の条件を満たす患者である。

●18歳以上であること
●フランス国籍を有するか、フランスに居住していること
●「自由かつ十分な情報に基づいて」自分の意志を表明できること
●生命を脅かす重篤かつ治癒不可能な病気であり、進行中または末期段階にあると宣告されていること
●持続的で耐え難い肉体的または精神的苦痛を呈すること

一方で、アルツハイマー病などの認知症や、精神疾患単独の患者は対象外とされた。これは「自己決定の能力」が重要視された結果であり、法的な判断能力が疑われるケースにおいては援助死を認めないという方針が貫かれている。

安楽死を希望する患者は、主治医にその意志を伝える書類を提出し、2日間の冷却期間を置いて、改めて決心が変わらないかを確認する。主治医は外部の専門家を含めた医療チームを招集し、15日以内に決定を下す。安楽死を許可する場合、医師は有効期限が3か月の致死薬の処方箋を発行する。

また、ネット上の偽情報を含め、患者の安楽死を妨害する行為が行われた場合、懲役2年、罰金3万ユーロ(約490万円)が科せられるという。

この法案をめぐっては、議会内外で激しい議論が巻き起こっている。支持派は「個人の尊厳ある死の選択」を強調する一方、反対派は「生命倫理の一線を越える危険な試み」だと警鐘を鳴らす。

自殺を禁ずるカトリックの伝統が根強いこの国では、宗教界を中心に反対を表明する人々も多い。また、自殺を大罪とするイスラム教徒の移民が多い点も、宗教的な観点からの問題を複雑にしているようだ。

その一方で、周囲では積極的安楽死を合法化する国が少しずつ増えている。2025年5月現在、積極的安楽死を認めている国は以下の通りである。

オランダ
ベルギー
ルクセンブルク
コロンビア
カナダ
オーストラリア(首都特別地域や北部準州は除く)
スペイン
ニュージーランド
ポルトガル
エクアドル
オランダに続き、2002年から安楽死を合法化したベルギーでは、国外からの「安楽死ツーリズム」が増えて問題になっている。

また、積極的安楽死を認めていないスイスでは、自殺ほう助は合法であり、外国人もこの法律の下で死を選ぶことが可能である。

スイスでは年間1,500人以上がこの法律による死を選んでいるといい、2021年と2022年には日本人もスイスで自ら最期を迎えたことが知られている。フランスと国境を接するこの2国には、フランスから安楽死を求めて訪れる患者がとても多いのだという。

日本では現在のところ安楽死は違法であり、尊厳死がようやく社会の認知を得てきたといったところだ。厚生労働省の指針では、患者の延命治療の中止や緩和ケアの重要性が語られているものの、「死をもたらす医療行為」については依然としてタブー視されている。

その一方で、超高齢社会を迎える中、医療リソースの限界や患者や家族の精神的・経済的負担の増大から、「尊厳ある死」を望む声は年々強まっていると言えるだろう。

今回、フランスでこの法案が通った背景にも、高齢化やそれにともなう慢性疾患の増加、高額な医療費など、さまざまな問題があるという。また「自分の死に方は、自分で決めたい」という意識が、若い世代も含め、フランス国民の間に広がっているようだ。

フランスでは9月以降、上院でこの法案が審議される予定だ。上院を通過後は再び下院での審議が待っており、実際に施行されるのは、早くても2028年以降になると言われている。


日本では、医療費の公的補助はフランスよりも充実しているかもしれませんが、少子高齢化は圧倒的に進んでいるし、宗教的な抵抗も少なそうなのにこのような法案や議論が出てこないのはなぜでしょうか?

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