クリニックでの臍帯血移植に効果はあるか?
以下は、記事の抜粋です。
無届けで臍帯血(さいたいけつ)の移植治療を行っていたとして、民間のクリニック11カ所に対し、厚生労働省が臍帯血移植の再生医療を一時停止する緊急命令を出しました。
「臍帯」とは、赤ちゃんとお母さんをつないでいるへその緒のことです。へその緒から得られる臍帯血には、白血球や血小板など血液細胞の元になる造血幹細胞が含まれており、以前から白血病などの血液疾患の治療に使われてきました。
しかし、今回報道されたクリニックでの臍帯血による治療はまったく異なる性質のものです。美容目的のアンチエイジングやがん治療を目的として行われました。
いったい、臍帯血にアンチエイジングの効果があることをどうやって検証したのでしょうか。臍帯血を投与した群と投与しない群を比較した研究を行わなければならないはずですが、そんなありません。病気を治すのならともかく美容目的を目的とした研究は、計画段階で倫理委員会の審査に通らないでしょう。
がん治療についてもきわめて疑問があります。確かに臍帯血移植は血液系のがんに対して用いられますが、強力な抗がん剤治療に伴って低下した患者の造血機能をドナーの血液で代替させるために臍帯血移植を行うのです。入院設備もないクリニックにおけるがん治療に臍帯血が役に立つとは考えにくいです。
クリニックでの臍帯血による治療には保険は効きませんので全額自費です。クリニックのウェブサイトによると、数万円から十数万円かかるようです。300万円の治療費を請求していたケースもあったとのNHK報道もあります。
残念なことですが、医師の一部は、エビデンスに乏しい医療を高額な対価を取って提供しています。標準医療が効かなくなってきたがんの患者さんは、「少しでも可能性があるのなら」と大金を払います。患者さんはダメでもともとと思っていますので、効かなくてもトラブルになることは少ないです。良心の呵責を捨てることができれば、実によいビジネスになります。
今の日本では、エビデンスが十分にある治療法は保険適応になります。研究途上でまだエビデンスは不十分であるものの見込みがある治療法は正式に事前登録された臨床試験で検証されています。保険適応でもなく臨床試験中でもない高価な自費診療の多くはまともなエビデンスがないとみなしておいたほうがいいでしょう。
記事に書かれている白血病治療のために行われる臍帯血移植は、患者の白血病細胞を抗がん剤や放射線治療ですべて殺したあとで、ドナーの造血幹細胞を含む臍帯血を移植し、造血幹細胞が増殖、分化して白血球や血小板を造りはじめることを狙った治療です。これは、抗がん剤や放射線治療で患者の造血幹細胞も死んでしまうからです。つまり、すべての血液細胞をドナーの血液細胞に入れ替える治療です。ただただ臍帯血だけ入れても意味はありません。
がん患者に臍帯血を入れた場合、患者の免疫系が健康ならば、移植された造血幹細胞は患者の免疫系の攻撃をうけて死んでしまうだけですが、移植された造血幹細胞由来の免疫細胞ががん細胞だけではなく、正常な組織も攻撃することによって移植片対宿主病(GVHD、graft-vs-host diseas)という副作用がおこれば死に至ります。今回報道されたような入院設備のないクリニックだと死に至る確率はかなり高いと思います。
上の記事を書いた酒井健司氏は、「私は、クリニックで提供される臍帯血治療は、無料でも、たとえお金をもらっても受けません。効果がないだけならともかく未知のリスクがあるからです。」と最後に結んでいます。私もまったく同感です。
こんな広告を信じないようにしましょう。
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