PSA(前立腺特異抗原)検査は不要か?

前立腺がん検診「推奨せず」 米政府部会が最終報告書
以下は、記事の抜粋です。


米政府の予防医学作業部会は5月21日、PSA(前立腺特異抗原)検査による前立腺がん検診は推奨しないとする最終報告書を出した。検診は患者にとって利益よりも不利益が大きいと判断した。

PSAは血液中のタンパク質のひとつで、前立腺に異常があると増加する。米国ではかかりつけ医の下で定期的にPSA検査を受けるケースが多い。ただ、この検査ではがんを発見できても、進行の速い攻撃的ながんと、そうでないがんを見分けることができない。前立腺がんは比較的進行の遅いタイプが多いとされる。

部会長であるVirginia Moyer氏によると、検査を受けたことによって助かったケースは、1000人中1人の割合にすぎないことが判明。同部会はすべての年代の男性について、検査後の放射線治療や手術による後遺症などの不利益が、効果をはるかに上回ると結論付けた。同氏は、医師は漫然と検査を繰り返すべきではないし、患者が検査を希望した場合も危険性を告知する責務があると述べた。

同部会は昨年10月、PSA検査は勧められないとの報告書案を発表。その後3000件近くの意見を検討したうえで、最終報告書をまとめた。一方、米泌尿器科学会は、PSA検査が「不完全」であることを認めたうえで、早期発見の重要性を考慮し、実施を推奨するとの立場を維持している。


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前立腺がん検査は不要 米機関が最終報告
以下は、記事の抜粋です。


前立腺がんのマーカー検査は不利益が大きいため推奨しない。米、予防医学作業部会が21日、こんな最終報告書を提出した。

前立腺のマーカー検査は、PSAと呼ばれるタンパク質の有無や濃度によって、前立腺がんの疑いを判定するもの。PSAは精子が体外に放出される際、精液のゼリー化成分を分解して、精子の運動を高めるはたらきを持つ。血液中に存在することはまれだが、前立腺肥大や前立腺がんがあると、これが検出される。

ただこの検査では、進行が早く死にいたるものか、進行が遅く命に別状のないものか、前立腺がんの性質までは特定できない。このため、検査で前立腺がんが見つかったことで、本来は不要な手術などの治療をおこない、勃起不全や尿漏れなどの後遺症に苦しむケースもあるという。

こういった不利益と早期発見による利益を比較した結果、予防医学作業会は2008年、「75歳以上の男性には推奨しない」との結果を報告した。今回の報告では、この年齢条件が取り払われ、全年齢層に対しても「推奨できない」としている。

日本では、PSA検査を推奨する泌尿器科学会と推奨しない厚労省の見解が対立する。厚労省では、具体的証拠にとぼしく効果を証明できないことから、推奨しない、とする立場をとっており、東京都などはこれを受け、区によって対応が分かれる。


海外の新聞の記事では”Routine PSA prostate cancer tests”や”PSA prostate cancer screening”を推奨しないというもっと微妙な表現になっています。つまり、部会は全員に対してスクリーニング的に行う「ルーチン検診」を推奨しないことを正確に報道しようとしています。というのは、前立腺がん診断やがん治療後の再発監視のためのPSA検査は、今回の部会報告の対象外だからです。

1)前立腺がんには進行の遅いものが多い。2)前立腺がんの発症年齢が高いために、がんが早期発見で治癒しても他の病気で死ぬ可能性が高い。つまり寿命への影響が少ない。3)PSA高値は確定診断ではなく、確定診断には生検が必要。4)生検の侵襲度は高く、出血や感染の危険も高いが、確定診断に至らないことも少なくない。5)前立腺がんの手術には、大手術に伴う一般的なものに加えて、排尿と排便の障害や勃起不全などを伴う可能性が高い。などなどがPSA検査にネガティブな判断が出る理由だと思われます。

しかし、最近のゲノム解析によって、乳がんが原因も治療も異なる10種類の病気に分類されることが明らかになったのと同様、近い将来前立腺がんも、複数の異なる病気に分類される可能性が高いと思われます。また、治療法の開発が進んで早期発見の意義が今よりも認められてくれば、簡便な前立腺マーカーとしてのPSA検査によるスクリーニングの意義も見直される可能性もあると思います。

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