以下は、記事の抜粋です。
がんの化学療法により、腫瘍の増殖を助けたり治療に耐性をもたらしたりするタンパク質の分泌が増えるとする研究論文が、8月5日のNature Medicineに掲載された。
化学療法は腫瘍細胞の増殖を抑制することで効果を発揮する。研究チームによると、化学療法で損傷を受けた(近隣の良性)細胞は「WNT16B」と呼ばれるがん細胞の生存率を高めるタンパク質をより多く分泌していた。研究チームはこの結果を、乳がんと卵巣がんの腫瘍でも確認した。
「WNT16Bの分泌増加は完全に予想外だった。分泌されたWNT16Bは、近くの腫瘍細胞と反応して腫瘍に成長や浸潤を働き掛け、さらに重要なことに、その後の治療への耐性をもたらしていた。良性細胞の損傷応答が、腫瘍細胞の増殖動態の強化に直接的に寄与している可能性があることを、われわれの研究は示唆している」と論文の著者の1人、Peter Nelson氏は述べた。
元論文のタイトルは、”Treatment-induced damage to the tumor microenvironment promotes prostate cancer therapy resistance through WNT16B”です(論文をみる)。研究者らは、がん細胞のパラクリン制御に注目し、DNAダメージを与えるような化学療法薬の投与により発現が増加する細胞外タンパク質をコードする遺伝子をゲノムワイド・マイクロアレイによりスクリーニングしました。
これまでにもDNAダメージで発現の増加が報告されているMMP1メタロプロテアーゼやCXCL3ケモカインとともに、記事にも書かれているWntファミリーのWNT16Bが8~64倍の発現増加を示すことが明らかになりました。
WNT16Bは間質細胞において、DNAダメージによりNF-κB経路を介して産生された後、細胞外へ分泌され、がん細胞のWnt/β-catenin経路を介して細胞増殖や浸潤を活性化し、化学療法薬耐性を来たすと研究者らは考えています。臨床的にも、WNT16Bの分泌量は前立腺がんの再発率と関連するそうです。
興味深いのは、がん細胞の化学療法薬耐性ががん細胞自身だけではなく、周辺の正常細胞によっても強く影響されるということです。がん細胞の薬剤耐性の新しいメカニズムを明らかにした仕事という位置づけだと思います。
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